これでおしまい
00: Ed il mondo sta cominciando
陽だまりの残る、あたたかな昼時。
小さな子どもが、絵本を読んでくれとせがむので、少年は差し出された本を仕方なく受け取った。
子どもは嬉しそうに笑う。
ここに帰ってくる前には見たことのない無垢な笑顔に、少年は少し戸惑ってから、苦く笑った。
見慣れていた赤髪は、少しだけ色が薄くなったように見え、それが笑い声と一緒に揺れるたびに、冷たい何かがなくなっていくようだった。
危険な喪失。そう感じるけれど、それを近頃は、心地よく思う。
がいー、と拙く呼ばれたので、はいはい、と太陽の匂いがする朱髪を無意識の内にやんわりと撫でてから、本をゆっくりと開いた。