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これでおしまい

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01: こ の 目 を 塞 い だ の は 確 か に 自 分 だ っ た




薄く開いた視界に見えたのは、白い天井だった。
最近は眠りも浅く、それでも深く感じる。判断はつかないけれど、ずっと目を閉じていたいと思うのだ。
ガイは身体を上半身だけ起こし、ぼぅっとしたまま光の射す窓へと顔を向ける。ああ、と小さな溜息をついた。そういえば、とても懐かしい夢を見ていた気がする。
ずるずる、と動かすのも億劫そうに両足をベッドから床に下ろして、痛む頭を右手で押さえるように当てる。視界も不安定で、ほとんど見えていない。それを自覚しているのかしていないのかはガイの周りの人間には判りかねた。
ただ、伯爵という地位にいるというのに身の回りのことはすべて自分でしようとしていたし、メイドが呼び止めないと気がつかないまま最後まで自分でこなしてしまう。
きっとつい数年前まで使用人という仕事をしていた所為でしょう、と誰もが口にしたが、もうそのことを談笑することは、ない。誰も。



「旦那様、おはようございます」
緩やかに下げられたメイドの顔を見たガイはにこりと笑って、おはよう、と柔らかく返した。だけどそこには弱弱しい笑みがあるだけ。
メイドは、ご調子は如何ですか、と不安げに聞くと、これも同じような笑みを浮かべたまま、ガイは答えた。
大丈夫だよ、ありがとう。
そのままガイは白が基調とされたつくりの屋敷にある庭が見えるエントランスを抜けると、頼りない手つきで庭へと続く扉を開けた。ほとんどが手探りだった。見えているのか見えていないのか、判りかねる足取りで庭に出ると、ペールがガイに気がついて作業を止め、振り返った。
少し焦点のずれる主の顔を見上げ、柔らかく笑う。
「おはようございます、ガイラルディア様」
「ああ、おはようペール。今日も、綺麗に咲いてるなぁ」
色とりどりに咲いた花を見るガイに、ペールは悲しそうに眉を下げた。その微かな表情の変化さえ、もう彼は気づくことが出来ない。曖昧な、ぼんやりとした景色しか映さないであろうその眼をゆっくりと動かしながら、ガイは苦しそうに息を繰りかえし、突然何度か咳き込んだ。
「ガイラルディア様、お体に障ります。どうか、お部屋に……」
心配したペールは土のついた手の汚れを急いで落してから、咳き込む主の背をゆっくりと撫でた。撫でながら、焦点の合わなくなってしまった眼の色を悲しく思った。そのあおは、すべてのものから逃げるように光を拒絶し始めている。主がこんなにすべてのものを拒絶し始めた理由は、分かっているのに。分かってしまうのに。
どうして何も出来ないのか。ペールはただ無力を感じていた。
「……悪い。大丈夫だ」
咳がやんだあと、ガイは笑ってみせた。それにペールは強く反論できず、背中を撫でていた手を戻して、少し沈黙を置いてから、何かありましたかなと優しく訊いた。
「夢を見たんだ。懐かしい、夢。あれはたぶん、」
何かを慈しむ、いとおしい表情。この顔をさせるのは、少なくともたった一人の存在だったことをペールは知っていた。そして、それを理由に主が崩れていっているのも分かっていた。知っていた。
彼は、明るくて、優しい少年だった。人の醜い業の上に生まれたひとつの命だった。たった一人になってしまった守らなければいけない主の闇をすこしずつ払い、救いをくれた人だった。幸せでいてほしい、と思っていた。
そうして。
それなのに。

「ルーク、だったよ」

彼は、帰ってこなかった。


作品名:これでおしまい 作家名:水乃