未完成少年進化論
静雄が皆というのは、彼の同級生のことなのだろう。子供は残酷なので、自分と違うものを中々受け入れられない。
幼い静雄が、彼等の発する幼さ故の思慮の欠けた暴言に心を閉ざしてしまうのも、致し方ないことなのかもしれない。
どうしたものかと、考えてみたが、上手い慰め方も思い付かず、帝人は俯いた小さな頭に手を置いて、優しく撫でる。
ピクリ、と肩を揺らした静雄だが、顔を上げようとはしなかった。
「人と違うのは、確かに怖いことだよね。」
他者の目を気にして、波風を立たないように生きて来た帝人には、異端だからと排他されることの怖さを、知っている。
その怖さを知っているから、凡人であることを甘んじているし、これからも目立たなくて良いとも思っている。
「僕だって怖いよ。静雄君は、友達にそうやって言われて、悲しかったんだよね、辛かったんだよね。」
一拍置いて、静雄が小さく、首を縦に振った。
「それで、僕もそうだって、思った。」
再び、首が縦に振られる。
「そうだなぁ・・・上手く言えないけど、僕はそれも、静雄君の個性だと、思うけど。」
ビクリ、と先程より身体が大きく震えて、下げられていた頭が勢い良く上がった。
まんまると、瞳が見開かれている。
「誰かに拒否されること、否定されること。静雄君は、それが怖いことだって、分かってる。だから、君は優しくなれる。」
誰かに否定されるのなら、同時に、誰か受け入れてくれるものが居なければ、世界は不公平だ。
だから。
「ちょっと力が強いだけだよね?静雄君は静雄君だよ。」
ニコリ、と微笑んだ帝人の顔は、慈しみに溢れていた。
茫然と、見上げていた静雄の瞳が、潤み始める。
と、唐突に、静雄が帝人に向かって飛び込んで来た。
突然のことに驚いた帝人は勢いを殺しきれず、そのまま背中から畳へと寝転ぶ。
後頭部を強かに打ったので擦っていると、小さな身体が震え、嗚咽が聞こえ始めた。
漸く、年相応に感情を見せた少年の背を、撫でてやる。
「良いよ。思いっきり泣いて良いよ。」
撫でた背が暖かかった。
1人の人間として受け止めた少年の身体は、帝人の想像以上に重かった。
夕焼けで空が茜色に染まる頃。
「みかど、ありがとう。」
眼元を腫らしながら、不器用な笑顔は、少年が心の底から浮かべた、幸せの笑みだった。