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未完成少年進化論

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変わらない表情、眼の奥に、懇願の色を見た気がして、帝人の肩が下がる。
小さく息を吐いて、「了解です。」、と苦笑を返した。

「・・・・・・ありがとう。」

だんまりを決め込んでいた栗色が初めて帝人に向かって言葉を発した、瞬間だった。



* * * * * *



 翌日。

「お待たせ、静雄君。」

彼の通う小学校へ向かうと、予めの時間を伝えておいたせいか、彼は大人しく校門前に立っていた。
帝人が声を掛けると、俯きがちであった静雄の顔が上がる。

「御免ね、待っちゃった?」

帝人が謝罪すると、小さくフルリと頭を横に振って、帝人の横に並ぶように、静雄が立つ。

「大丈夫。」

やはりポツリと、小さく零された声は直ぐに空へと溶けて消えた。
行こうかと、声を掛けると、コクリと頷いて足を動かす。
帝人は、早くなり過ぎないように気を付けて先に進んだ。



 平和島静雄、6歳は、端的に言うと、手の掛からない子供であった。
先ず、1人遊びが上手い――というよりも、帝人と積極的にコミュニケーションを取ろうとしない。
我儘を言わない――必要最低限しか喋らない。
良くいうことを聞く――決して能動的ではない。
彼もまだ小学生であるし、血縁とはいえ碌に知りもしない年上の従兄に預けられ、心を開けないでいるのだろうと、帝人は静雄の歩みに合わせて距離を図ろうとしていた。
無理に構って鬱陶しがられ、部屋を飛び出されても困るのだ。何しろ帝人の体力と運動能力は同年代のそれを聊か(という表現は控えめに見て、であるが)下回っていたので、元気の有り余る小学生、しかも、叔母から聞いた話では、静雄は運動神経に優れているらしいので、帝人の足では追い掛けて捕獲出来る可能性が少ない気がしたので。
だが、彼は、帝人から差し伸べられた手を躊躇う割に、帝人が静雄を見ていない隙を見て、ジッと帝人の背を眺めているのである。それが、どういう意味を含むのか、帝人は読み取れなかった。



 静雄と共に居る空間に順応してきた頃。
その日は休日で1日中帝人は家に居り、これ幸いと休日出勤の為家を空けるという叔母から静雄の身を託された。
静雄は、いつものように黙々と、白い画用紙に絵を描いている。
彼の芸術は中々独創的なので今一つ何が描かれているのか判別し難いのだが、時折目で感想を求められるので、曖昧に笑って答えてやる。
そんな一コマで、暇を持て余した帝人はPCを弄っていて凝った肩を回し、うんと背延びをして立ち上がった。
チラリ、と時計を見ると、もう直ぐ3時となる所だ。
部屋の隅に置かれている冷蔵庫を開けると、静雄が飲む為に買っておいた牛乳、そしてコンロ上の戸棚には、あるものが仕舞われていた。
そこから、帝人は数瞬逡巡すると、静雄を見る。

「もうおやつ時だね。お腹空かない?」

帝人の声に反応して、静雄が顔を上げた。
少し迷って、小さく首を縦に振る。
どうやら彼は、帝人のことを気にしているらしく、手を煩わせないようにしている節があった。
その時も、自分の我儘で帝人を困らせるのではないかと思ったようだが、直後に鳴った自身の腹に、嘘は吐けなかったのだろう。
下ろした顔が、ほんのり恥ずかしそうに朱に染まっていた。
微笑ましい様子に小さく笑い、「ちょっと待っててね。」、というと、帝人は簡易キッチンへと向かって行った。


「はい、お待たせ。」

用意された卓袱台の上に乗っていたのは、ホットケーキだった。
ホカホカと出来たての湯気と、食欲をそそる仄かに甘い香りが鼻孔を擽る。
ふんわりと膨らんだそれは、パッケージとして乗せられるそれのように、出来の良い形だった。
上に鎮座している一欠けらのバターが熱で溶け、トロリと皿へ伝って行った。
料理は帝人の得意分野であり、菓子作りも相当なのだが、彼は甘いものより塩辛いものの方が好きなので、自分で食べる為にはあまり作らない。
久々に作ったので出来が心配だったが、どうやら失敗しなかったようで安心した。
が、作ってから、静雄が甘いものを得意としなかったらどうしようと、気付く。
恐る恐る少年の顔を覗き込む、と。

「・・・・・・っ!」

キラキラと、今まで見ていた中で最上級に輝かしい目で、眼前に置かれた物体を見ている。
微かに上気した頬は、恥ずかしさで染まっていた先程の比で無い程、赤くなっている。
その様子を見るに、彼が甘いものが嫌いで無いようなので、一先ず安心する。
煌く目で以て帝人を窺い見た静雄に、どうぞ、と手を向ければ、彼は嬉しそうにホットケーキにフォークを刺した。
小さく切って、口に含む。

「お味は如何ですか?」

「っ、おいしい。」

微かに緩んだ口元が、言葉以上に雄弁に感想を伝えてくる。
作り手冥利に尽きると、帝人もゆるりと微笑んだ。


 だが、半分程食べ終えた頃であろうか、唐突に静雄の表情が陰り、フォークを置いてしまう。

「どうかした?もういらない?」

どうしたのだろうと問うてみれば、フルフルと首を横に振って、静雄は帝人を見上げた。
不安そうに揺れる双眸の上、細いがしかし凛々しい両眉が、キュッと寄せられる。

「・・・・・・なんで?」

「えっ?」

「なんで、やさしいの?」

唐突に告げられた言葉に、帝人は咄嗟の返答が出来無かった。
何故優しいか、と言われても、血縁であり子供であるという以上、無条件に庇護対象として甘やかしてしまうものではないだろうかと、帝人は思っている。
それに、帝人は普段の日常の延長線上に、それこそ片手間で相手をしていた感覚だったので、特に目を掛けたという意識も無い。だが、彼は違うのだろうか。
言葉に詰まる帝人に、静雄は重ねる。

「みんな、おれのこと、さけるんだ。ばけものって。せんせいだって、できればおれにちかづきたくないって、きっとおもってる。それでいいはずなんだ。おれとかかわっていいことなんて、ないんだ。」

昏い瞳を覗かせて、静雄は言った。帝人は、背景が分からないので、全く意味が分からないのだけれど。

「だから、あんただって、おれのこと、ほんとうはばけものだって、おもってるんだろ?なのに・・・」

悔しそうに唇を噛み、静雄は帝人から視線を外した。毛を逆立てた猫のような雰囲気のまま、傷付いた動物のような弱々しい瞳を浮かべる。
静雄の言葉を反芻してみて、帝人は、本人からも叔母からも聞かなかった、とある話を思い出す。

「それって、静雄君が、大分力が強いって話?」

「!」

明らかに動揺が見て取れる様子に、やはりな、と帝人は納得する。
静雄は生まれ付き、常人よりも力が強い性質なのだそうだ。
帝人もその話を母から聞いた際は半信半疑だったのだが、手伝いの一環で皿を拭いて貰っている際、幾度も皿を割られれば、納得するしかない。勿論落とした訳ではないのだ。
本人に怪我もないし、悪気があった訳でもないようなので、見て見ぬ振りをしていたのだが、それが良く無かったのかもしれない。
静雄本人も、力が強いことを、気にしている。彼は感情の波がそのまま力に還元されてしまうようで、怒りに任せて力を振るってしまった結果、同級生を怖がらせてしまったらしいのだ。
作品名:未完成少年進化論 作家名:Kake-rA