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∽咲いた、桜

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ただその扱いに見かねた竹中や豊臣が力づくで親元から引き離し、傍らで健やかに育てた。
初めて見かけた、骨と皮だけのような、浴衣の中で泳ぐような手足をした子供から、三成はどれだけ育ったろうか。
年毎に匂うように美しく、けれど研ぎ澄まされていく佇まいは、家康の眼を惹く。
だが三成の中身は同じだ。
子供のころと、同じ。
豊臣と竹中以外の他人は全て警戒し、表情を和らげることなどない。
大昔の、前世と同じ。
二人をただ信奉し、崇め、従順に忠実にあることを幸福とする。
今も家康は、悩む。
かつての豊臣の在り方は、納得できないものだった。
力こそ全て、という在り方は。
けれど三成は、力づくでなければ救えなかったろう。
そこに理解と迷いが生じる。
家康はずっと迷っている。
父は同じ職に就いてくれると思っている。
半分は、家康もそう思っている。
けれどもう半分は、別の道を模索している。
それが可能かどうか、とも。
警察に出来ないこと、警察ではないから出来ること。
自分で考えても、他人に相談しても、答えは出ないままだ。
「さあ、お別れの挨拶をしよう。これでもう、会うことも無いだろうからね。」
ひそりと、毒のある声で竹中が言った。
家康が驚いて振り仰ぐ。
竹中に手を引かれて立った三成も、目を丸くしている。
「驚くことじゃないだろう?今までが不自然だったんだ。そりゃあ、こちらも君のお父さんと情報を遣り取りすることは随分役に立ったけど。」
肩を竦める竹中が、それは可笑しげに口を歪めた。
「だけど駄目だよ。これから戦況は悪化する。君たちと居る所を他人に知られると、痛くも無い腹を探られるからね。それは、そちらも同じだよ。火種になるようなものは、お互い抱えない方が良い。」
くすりと小さな笑みが、家康を侵食する。
戦況、火種。物騒なその言葉の傍に、三成を置くのだと竹中は言っている。
風が吹いた。
ざわり、花弁が散り、枝が流れて視界を遮る。
花の香気に紛れるように、三成のセーラー服が翻る。
閉ざされた花の世界が、揺らぐ。
お別れの挨拶を、と言っていたのに、行ってしまった。

遅れて訪れた父が、家康を見つけ、帰途を促す。
とぼとぼと歩きながら、ふと。
嬢ちゃんの剣舞は見てみたかったな、と父は呟いた。
同じ位置で肩を並べる家康の視線を感じて、父は言う。
詩吟と、それに合わせての剣舞が三成は名高いのだと。
あの歳で冴え冴えとした、美しい剣を三成は魅せるのだと。

嗚呼、と家康は空を仰いだ。
嘆息は春風に溶ける。
ああ、ああ、何も変わらない。
家康が新しく、何かを変えて関係を構築したいと考えていても、そうあるように働きかけても、何も変わらない。

きっと、またあの憎悪に染まった瞳で、三成は家康を見つめるだろう。
ああ、それは最早、確信だ。

父は黙っていた。
三成に向ける家康の感情が、どんなものだったか、どんなものを育てようとしていたか、勘付いているだろう。
ああ、けれども。けれども変わらないのだ。
また、繰り返すのだ。
それはなんて、絶望だろう。
この世はこれほどに美しいのに。
美しさは変わらないのに。

望まないものも、変わらないのだ。
それは、全てに平等に。

そう遠くない未来、家康の確信は、現実となる。
悲嘆と憎悪に塗れ、染まりきった三成が、家康の名を呼ぶ。
それは、何も変わらずに。
ただ美しいままで。
作品名:∽咲いた、桜 作家名:八十草子