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心象風景

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アルバムをぶちまけたみたいだった。
名前を呼ぶと、彼がこちらを見た、目が合った瞬間。
その一瞬で、いくつもの光景が浮かんだ。出会いから別れまでの、1年に満たない期間のことだ。
忘れたとばかり思っていたことまで思い出して、ああもしかしてこれ、死ぬ間際ってやつなんじゃねぇの、なんて。


「先輩、なんで、あそこにいたんすか」
「・・・それさ、普通聞くの、こっちじゃね?」
「なんで、今日、だったのかな」

結局二人ともそこそこに濡れ鼠で、部屋に着いて服を脱いで、交代でシャワー浴びて、冷蔵庫にはろくなもんが入ってないし、買い置きのカップ麺を2つ出して、お湯を入れてから2分経った頃、静雄がようやく口を開いた。
見透かされたかと思ったけど、俯いている静雄は、質問してるというより独り言を言ってるみたいだった。

「俺、今日、最低な日だと思ったんすけど」
あ、顔あげた。
てか、何、その。
「ひっくり返りました。会えると、思ってなくて」
嬉しそうな、顔。
「・・・あ、そう」

警察署の前で、いかにも何かやらかしました的な佇まいでいたから、さぞ落ちこんでいるだろうと思ったら。
俺に会えたから、って。
何だったんだ、あれ。何かの罠か。俺は見事にはまったのか。
今まで周到に、注意深く、危険は素早く察知して、近づかないように。
近づかないように、していたのに。
だって、平和島静雄だ。池袋で仕事していたら、嫌でも聞こえてくる名前だ。
語られる最強伝説とは別の、もっとノスタルジックで青臭い理由で、ここ10年回避し続けるのは簡単だった。

「3分、経ちましたね」
「だな」

今日も、そうすればよかったのだ。
雨は降ってるし、人は多かったし、遠目に見てそうとわかったんだから、回れ右すりゃよかった。
でも。
まるで叱られた犬みたいにしょげてたのが、昔、喧嘩の大立ち回りの後で見せた表情を彷彿とさせていて。
雨と犬って、卑怯な組み合わせだよな。遭遇したら拾わずにいられない。
10年もたてば、ほとぼりもさめただろうと思ったのに。
一途だったんだなぁ、お互い。

「あの。先輩。麺がのびますよ」
「ん。お前は食ってろよ」

静雄は箸使いがきれいだ。食べてるのがカップ麺でも、いい男だと絵になる。
中学時代、昼休みに弁当を食べていたことを思い出す。
ぶちまけたアルバムにもあった光景だ。
同学年に友人がいなかった静雄は、屋上で知り合ったばかりの俺と昼休みを過ごすようになった。母親の作った弁当を、嫌いなものがあっても残さずに全部食べる。1年弱、間近で見られる特権があって、あれを特権だったと思うのは、久しぶりに食事風景を見た感動からだ。

「あの、なんで、見るんですか」
「んー。人が、飯食ってるの見るのが好きだから?」
「・・・もらっといてなんですけど、カップ麺ですよ?」
「だな。悪ぃな、そんなんしかなくて」
「いや別にこれで十分っす!」
「今度、冷蔵庫が充実してる時にな、もっといいもの食わせてやっから」
「・・・今度」

次があるんだ、という顔を静雄はする。
10年、回避し続けていたことを、多分静雄はうっすらと気づいていて、だから俺は彼に信用させることが難しいだろう。卒業と同時に切り捨てられたように、今のこの偶然のつながりが、続いていくという保証が彼にはない。
でもそう、俺は観念した。
10年経ってもさめないなら、100年経っても同じだろう。つまり死ぬまでこの気持ちを抱えていく、覚悟を。

「お前さ、俺の仕事、手伝わねぇ?」
「え」
「走馬灯まで見ちゃったし。もう末期だよな、うん」
「ええっ」

困惑する静雄をよそに、伸びてきたカップ麺をようやく食べ始めて、不味いなぁと思った。
もう後戻りできない。

濡れたバーテン服は一式ハンガーに引っ掛けて、静雄は今、俺の部屋着のスウェットを若干窮屈に着て、俺を見つめる目は飛びかかりたいのを必死で我慢してる犬の目だし、10年前と違って身長なんか飛びぬけてて座ってても部屋が狭く見えるし、いまだに金髪だし、箸使いに見とれてたのに何故かぽっきり折られてるし、「先輩・・・っ」て何その切ない声、これどっちか逃げなきゃやばいんじゃね、と頭の隅で思いながら、俺はにっこり笑ってやる。

大人で、卑怯で、腹をくくって、おまえが好きだから。



作品名:心象風景 作家名:かなや