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竜の子

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竜神が持つ宝玉があるという。
 しかしこの子供を拾ったときからそういった持ち物は見当たらなかった。周りにも子供自身にも。下界に降りた竜は玉の力により己が周りの空気を清浄化させ生きていると聞く。この子供は平気なのだろうか。




 竜の子を拾って一週間。
 これといって体調に異変はないようだ。この子供の主な食事は神酒。だがよく野菜を口にする。代わりに肉の類は一切口にしない。雨を降らせては水を浴びるように立っている。この子供は水竜の類なのだろうか。
 そういえば顔を洗ってやっているときに見た右目。とても美しかった。この世のものでないのかと思うほどに。金を帯びたその色は陽にあたるとまた違う様相を醸す。二、三度瞬きをした子供に嫌がられそれ以上を見ることは叶わなかったが普段見えている左のそれとは異なっている。
 異形――人のそれとは違うもの。そうだ。子供の姿をとっていても竜神。神の子なのだ。
 しかしいくら神の子といえど未だ保護される身の年ではなかろうか。外見で判断できるようなものでもないだろうが。群れからはぐれたのか。親について尋ねてみてもわからないと首を振られる。仕方がない。少しずつ探していこう。

 竜の子を拾って二週間。
 人でいう耳の辺りから生えた角を撫でると気持ちよさそうに目を細める。暖かい日などは縁側で共に日向ぼっこをするようになった。膝を枕にされコロンと転がり気が付いたら寝息を立てている。
 右目を見られることを余りにも嫌がるものだから適当な眼帯を与えてやった。最初にじろじろと見てしまったのを少し反省する。この右目。なにかを思い出させる。そうだ空に浮かぶ月だ。雲ひとつない空に浮かぶ大きな満月。圧倒されるほどの。それを覆ってしまったのが少し残念にも思う。

 竜の子を拾って三週間。
 一緒に風呂に入り身体を洗ってやっていた。子供の背にある小さな羽根が水を弾く。その間にある不思議な色をした鱗を目にした。興味本位で触れたのが間違いだった。子供の身体がびくり震えたかと思うと空から地上へと一直線に風景を貫いた雷光が風呂場に落ちる。壊れた家屋と舞いあがった水分の蒸発による煙が晴れたとき子供の姿は消え失せ代わりに大人の竜がいた。誰だと問うとさっきまでいた竜の子の名を口にする。これは一体どういうことか。
 竜の子は説明する。背中にある鱗はスイッチのようなもの。死角である背中。そこにある鱗。実は煎じれば薬になる。竜の血には不老不死の効果があるとも噂されており鱗だけでもそれに近い効力が得られるのではないかと伝え聞いていた。その噂を聞きつけたものに乱獲され己が種族が絶滅の危機に陥ったことがあった。オレは生まれてなかったから知らないけど。でも隠れるように暮らしてる。竜の子は言う。生き残ったものが徐々に進化したのだろうそれがさらけ出されたときこのように発動する。天下る雷をためることにより肉体の能力を一時的にあげ危機に備えるらしい。体内に留まった雷が無くなれば元に戻るという。
 そっと触れようとするとバチリと鋭く弱い痛みが走る。簡単に言うならば静電気が強くなった感じだろうか。なるほど先ほどの話に納得がいく。身体が帯電しているのだ。
 驚かせて悪かったと口にする顔はしょんぼりとしていて未だ彼が子供の様相を持ち得ていることが見え安心する。気にしていないと己が笑えばほっとした表情をする。しかしこの惨状。どう佐助に言い訳したものか……。

 竜の子と暮らし始めて初めての春が来た。
 この子の親は未だ見つからない。このままでもいいのかとも思う。この子供が望むならいくらでも面倒をみよう。ここではもう気を許してくれるようになったのか身体をすりよせるように甘えてくる。しかしこの頃は体調が芳しくないのか少々息荒くそれを落ちつかせるためかうつらとしているのをよく見る。熱を計ろうと見た顔は赤く目も水を張ったようにうるんでいる。
 竜の子の病気などわからない。困り果て佐助に相談した。
「何でもかんでも俺様に聞いたらいいって思わないでよ。動物で考えるならもうすぐ恋の季節だけど……」
 思いがけない回答がきた。竜の子も神として崇められているとはいえ生き物だ。納得はいく。だがどのように対処したものか……。
「それにもうひとつ。竜は変態するって聞くよ」
 もしかしたらそれかもね。佐助は付け加える。
 変態? 大人になるということだろうか。だがこの子の他に竜など知らぬ。その小さな身体に起こりえてる昂りをただ抑え込むのは自然の理を壊すことになりかねない。しかし苦しそうな様子をただ見ていることも出来ず右往左往しているところを呆れた佐助に追い出されてしまった。

 翌朝。
 子供の部屋に行くと布団の上に見知らぬものが鎮座している。卵のような繭の様な……そこまで驚かなかったのは中で丸まっている子供の姿が薄く確認できたからだ。しかしどうしてこのような姿になったのか。もしや本当に変態するのだろうか。昨日の佐助の言葉を思い起こさせる。
 呼吸とともにゆるく蒼光る。この様子。どこかでみたことがあるような。そうだ。蝶になる前の蛹の状態に似ているのだ。竜の子とはこのように変態するものなのか。興味深げに近づき触れようとした手がバチリと甲高い音を立て弾かれる。触れた部分はジンと小さな痛みを持ちそこは赤く腫れていた。あの時と同じ一種の防御本能だろう。迂闊だった自分に心の内で舌打ちする。
 部屋に戻ると頼んでおいた書物が置かれていた。竜に関する資料だ。座し頁を捲る。
 ――竜は雌雄体である。成体へと変態した時に性別が決定する。稀に雌雄のままの者もいる。その場合極めて霊力が高い代わりに姿が不安定である場合が多い。竜の長が幼い恰好をしているのもその類が関係する場合がある。
 案外と書物逸話が残っているものだと思う。それが創作でないならばだが。人の姿を纏った動物や神といわれる類は遠い世界の様ですぐ隣にある。比例して見聞も多く残っているのだ。
 あの子供はどういった成体になるのだろう。雄々しく立派な竜となるのだろうか。想像に心が沸く。

 竜の子が変態し始めて数日。
 日課の鍛錬をしていた幸村の元に佐助が現れる。孵化するかもしれない。そう述べられ幸村は部屋へと向かう。
足を踏み入れた先には蒼白く立ち上る焔。それは繭の先から出でており、己が戦場で織り成す爆発的なエネルギーの放出に似ている。
 破れる。と同時に視界いっぱいに広がった白さに目を瞑る。
 再び開いた目の先にはきょとんとした顔でこちらを見ている竜の子がいた。
「佐助」
 己の第一声はそれだった。
「成長するという話ではなかったのか?」
 濡れた身体でいたために冷えたのか竜の子は小さくクシャミをする。
「文献を読む限りはそんな感じだったけどね。実際は違ったなんてよくあることだよ。ヒトの俺らに神の子のことなんてより分かる訳ないじゃない。とりあえず何か着せないと風邪引いちゃうよ」
 応えつつ手際良く身支度をする。
作品名:竜の子 作家名:わさびもち