Ohne dir.
感情がそのままPDAを打つ指に表れていた。乱暴に正確に打ち込まれていった。嘘だと思っているのだろうが、新羅の言葉に真実味を感じているようだった。
「多分、いや本当だよ。静雄が動揺してた」
『……静雄が見つけたのか?』
「うん、こっちに連れてくるって」
『手伝おう』
セルティはぱっと身を返して玄関へと走っていった。
さて、準備しないと。新羅は袖を捲りぱたぱたと部屋の中を走り始めた。
とりあえずまずやるべきことはした。
静雄は電話を切ると息を吐いた。
「トムさん、俺ちょっとこいつを知り合いのところに運びます」
「え?病院じゃないのか?」
「多分病院はまずいと思います。こういうのに詳しいやつがいるんで、そっちに運びます」
静雄は臨也の傷が開かないように脇下と膝裏に腕を通して持ち上げた。完全に脱力しているようで、糸の切れた人形のように腕はだらりと下がり、首も仰け反った。今が夜で助かったかもしれない。こんな姿は昼間に見つかったらすぐに人目について通報ものである。
「すみません、行ってきます」
「いや、とりあえず急げ。社長には俺が言っておくから」
「ありがとうございます」
静雄はトムに軽く一礼をすると、速足に歩き出した。
――― 静雄、大丈夫か……?
トムは走り去る静雄の背を見て思った。放っておいてもおかしくはない関係だと記憶していたが、やはりどこか思うところがあるようだ。
――― 直接自分がやってないことが原因か?いや、あいつはそんな奴じゃないな
地面に残ったものから目を背けてトムは会社へと足を進めた。
途中すれ違った男たちが血痕を消しに来たことを、彼は知らない。