紅い桜プロローグ
桜の木の根本で、幹に寄りかかりながら少女は桜の木を見上げる。
その少女の膝の上に、青年は頭を乗せて少女を見上げていた。
淡い、薄桃色の花弁が降りしきる中、少女の真っ白な細い腕が伸びてそっと幾百もある花弁の一つを手に取った。
「何をしているの?」
青年も腕を伸ばし、先ほど少女がのばした腕をつかみひきよせると、手のひらの花弁を見つめた。
少女は鈴を頃がしたように笑い、なんでもありませんよ、と呟いた。
「ただ、手を伸ばしてみたくなって」
「ふーん。この俺より興味があるだー」
「え?ふふ、もしかして臨也さん、桜の花に焼き餅、ですか?」
握られていない手を口元に当ててくすくす笑う帝人に臨也は頬を膨らませた。
「そーだよー焼き餅だよー。帝人君がおれ以外に興味持つなんて嫌なのー」
臨也は掴んでいた帝人の腕を放して、寝転がったまま帝人の腹に手を回し抱きついた。
帝人はまだくすくすと笑いながら、臨也の黒髪を手で梳いてやる。
「甘えん坊ですね。臨也さんは」
「そんな甘えん坊を甘やかす帝人君は俺よりも甘いよねぇ」
くぐもった声で反論してくる臨也に帝人はさらに楽しそうに声を立てて笑った。
臨也も口元に笑みを浮かべながらぐりぐりと額を帝人にこすりつけるように甘えてくる。
「まぁ、帝人君は本当にどこもかしこも甘くておいしっ、ぐふっ」
「そ、そう言うことは言わなくてい、良いんです!臨也さんのスケベ!」
顔を真っ赤にして吠える帝人を、頭をさすりながら臨也は見上げた。
「痛いよ、帝人君・・・」
「臨也さんが悪いんです!そ、そんな事を外で言うんだもの!」
ぷぃっと顔を背けて頬を膨らます姿に、臨也は笑みを隠せない。
可愛くて、いとおしさが後から後からにじみ出てくる。
臨也は身体を起こすと、顔を背けて視線をそらしている帝人の顎を無理矢理己の方に向かせた。
「だって、今は誰もいないよ?君と俺だけだ」
「そ、そういう問題じゃないんですよ!」
「俺の本心なんだけどなぁ」
「だ、だから!外で言うことをやめて下さいってことで!」
「へぇ?じゃぁ、外じゃなきゃ良いの?」
臨也は最後の言葉を殊更官能的に、耳元で囁いた。途端に帝人の顔が先ほどよりも真っ赤に染まり、口元をぱくぱくと開閉させている。
「なっ、なっ」
「あれぇ?帝人君今想像しちゃった?ふふ、帝人君のすけべー」
「なぁっ!?いざやさぁぁん!?」
「あはは、そう怒らないでよ」
臨也は顔を林檎のように赤く染めている帝人の唇に触れるだけの優しい口づけをする。
すると、先ほどまで怒っていた帝人の言葉がぱたりとやんだ。
「愛しているよ、俺の花嫁」
「っ」
臨也は心のそこからの笑みを浮かべ、また静かに帝人に口づけを送った。