紅い桜プロローグ
幸せだった、幸せだったのに。その幸せが罪だというのか。
「どうして・・・・っ!!」
目の前で桜の大木が燃え上がる。赤く、紅く、燃え上がる。
口からこぼれ落ちるのは痛みと辛さと、悲しさがない交ぜになった後悔の言葉。
膝から力が抜け、その場に崩れ落ちた。
後から後からこぼれ落ちてくる涙。喉が焼け付くように痛くて、鼻の奥がつんとする。
土を力一杯握りしめたせいか、爪の間から血が垂れていた。
それでも、心の痛さには敵わない。
「みかどぐんっ!!」
額を地面にこすりつけながら、嗚咽の所為でむせて吐き気を催した。
いくら吐いても吐いても気持ち悪さがなくならない。
「みがどぐん・・・っ!!」
幸せが罪なのか。己は幸せになることさえ望めないのか。
ほんの些細な、生きるために働いた盗みでさえ、罪と天も言うのだろうか。
「俺は良いがらっ!たのむよぉ・・・みかどくんだけはかえしてくれよぉっ・・・・!」
拳を作り、地面を叩く。何度も何度も、叩いた所為で手はボロボロだった。
目の前の桜が燃えていく。帝人と共に燃えていく。
「どうして!どうして帝人君なんだよっ!おれ”に恨みがあるのなら俺にこいよぉ・・・っ!」
ただ、自分といた所為で、自分と一緒になろうとしただけで、村の連中に殺された愛おしい存在。
村人が憎いのか、己自身が憎いのかもはや分からない。
ただ、苦しくて辛くて悲しくて、痛かった。
桜の燃える花びらがひらり、ひらり、臨也へと降り注ぐ。火の粉となった花びらは臨也の衣服に、髪に、肌に触れては焦がしていく。
「くっ・・・!!!」
臨也が奥歯をかみしめて、行き場の失った怒濤の感情のままにもう一度土を叩こうとしたとき、桜の木の方から突風が吹き荒れた。
臨也は条件反射で腕で顔を守ろうとながら、桜の木を見上げた。そして、驚愕に目を見開く。
燃えさかる桜の木は風によってざわざわと揺れ、さらに炎を立ち上らせる。
紅い炎が、まるで満開の桜のように燃え上がっていた。
「ぁ・・・・」
帝人と共に見てきた薄桃色の桜は、もう、そこには存在していなかった。
自嘲とも哀れみとも付かぬ笑みを臨也は浮かべ、血で汚れ、火傷を負っている手を差し出した。
紅い、花びらが一枚臨也の手の上に落ちる。
「・・・ふ、あは、あははは・・・・ッ!」
その花びらを臨也は握りしめ、空を見上げながら声たからかに笑い出す。
臨也の瞳から一粒の涙がこぼれ落ち、彼はそのまま意識を失った。