バラの名前
「おまえとセックスして抱きしめられて、こんなにふるえてる」
抱きつく腕の力が緩み、そうしてゆったりとした動きでルルーシュはジノ頬に両の手で抱えた。紫色の眸が、まっすぐにジノを見つめていた。
「こころが」
まなじりには、やがて透明な雫があふれ、涙が幾筋も頬をつたった。またたきを繰り返すたび、長いまつげは大きな滴に濡れて、紫色をきらきらと瞬かせた。
そうしてしばらく、ルルーシュはただ透明な雫で深い色のまなざしを濡らし、ただ、ジノをみつめていた。
やがて、窓の外から夕焼けの赤い光がルルーシュの横顔を穏やかに染める。ルルーシュは目を細めてその光の方へと顔を向けた。やがて小さなため息をひとつこぼし、低い声で呟いた。
「もう、帰らないと」
不思議な諦観だった。ルルーシュの声が穏やかだったからかもしれない。どれほど近づいても触れ得なかったまま、結局、糸は切れ、幕は降りるのだ。そう考えるとジノはどこか滑稽だとすら思った。
「雨も……止んだようだし」
窓ガラスのについた、まだ乾ききらない雨の雫が夕日に照らされてキラキラと輝いていた。
「さよなら」
(了)