水の器 鋼の翼1
レクスは、考えた末に、サテライトの西へ移住することに決めた。この身一つならともかく、今のレクスには不動博士とルドガーから託された大事な物と使命がある。こんなところで終わる訳にはいかない。西側の空気は工場のせいで悪くなっているが、命には代えられなかった。
深く長い断崖絶壁には、有志の手による吊り橋が一本かけられている。どこか頼りないその橋は、風が吹く度にぎいぎいと軋んだ音を立てた。
吊り橋を渡る寸前、レクスは一度だけ後ろを振り向いてみる。
あの夜、レクスたちが夢を語ったモーメントの主塔。その姿は既になく、跡には排気ガスに塗れた鈍色の空だけが広がっていた。
(END)
2011/4/14