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こらぼでほすと 休暇5

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 暗にティエリアは、次はわからない、と、言っている。親猫も、それを理解して、そんな風に返事する。いつまでも、休業状態ではない。そろそろ動き出すのだろう、と、親猫も、その言葉に頷く。

「秋に刹那が戻ったら、そろそろ宇宙へ上がれ、と、伝えてください。」

「了解。・・・・さて、おやつの準備をしますか。ティエリア、リクエストはないか?」

 うーん、と、伸びをして親猫は、残りの麦茶を飲み干した。日常は、そのまま続いていく。何があろうと、寺の日常には変化は起こらない。それは、『吉祥富貴』でも、決めているし、彼らにとっても、日常の変わらないものが必要なのだろう。

「アンミツが食べたい。」

「それ、夜のデザートでいいか? 材料がないから、どっかに食いに行こう。」

「コンビニのでいい。」

「それなら、みんなを送り出してから、コンビニまで行こう。」

「ああ。」

 脇部屋のクーラーを止めて、回廊を家のほうに戻ると、レイが卓袱台で携帯端末でデータを読んでいた。親猫の姿に、時計を見て、そちらも立ち上がる。

「今日は、何にします? ママ。」

「ごはんがあるから、チキンライスかオムライスあたりでいいか? 和食がよかったら、親子丼にするぞ? レイ。」

「親子丼がいいなあ。」

「ティエリアは? 」

「どれでもいい。」

「もうちょっと食べることに興味を持とうな? ティエリア。食事は大切なんだぞ? 」

「あなたが作るものは、どれでもおいしいから、どれでもいいんだ。」

 似たようなことを言われてたなーと、レイは苦笑する。レイにも、同じことを親猫は注意していたからだ。で、ティエリアの意見にも概ね、賛成だ。難しいものは、レトルトも使っているが、ほとんどは手作りだ。だから、寺での食事はおいしいと思う。シンやレイが、ついつい寺へオヤツを食べに来るのも、おいしいからだし、親猫が迎えてくれるからだ。

「俺は、洗濯物を取り込んでくる。」

「ああ、頼む。水遣りは、日が翳ってからでいいぞ。」

 家事能力の低いティエリアには、料理は無理だから、おのずと担当ができている。子供が家のお手伝いとしてやるクラスのことになる。

「レイ、勉強は進んでるのか? 」

「予定通りです。」

「俺は、もう元気だからさ。ちゃんと勉強のほうを優先してくれ。」

 たまねぎを五個ばかり取り出して、親猫は、まず皮剥きから始める。レイのほうも、それに手を出す。

「わかっています。順調に、予定はクリアーしていますから安心してください。・・・・・今夜、空港への足はダコスタが送迎してくれる予定ですが、出かけられますか?」

 もし、外出するなら早めに、迎えに来てもらいますよ? と、レイは尋ねたのだが、親猫は首を横に振った。

「うちがいいんだってさ。だから、ぎりぎりまで、うちでのんびりして送って行く。」

「その気持ちはわかります。」

「ん? 」

「ここは居心地がいい。だから、離れたくなくなるんです。夏休みが終わったら、それが寂しいと、俺も思いますよ? ママ。」

 ここには、プライバシーなんてものはないし、空調だって、全部完備しているわけではない。だが、まあ、居心地はいいのだ。構い過ぎないが、放置されない。その微妙な距離が、レイは好きだ。たぶん、シンも気に入っているだろう。

「そんなことなら、うちに居候すればどうだ? レイ。別に部屋はあるぞ? 」

「たまに、居候はします。俺やシンは、ここからだと通学が遠いんです。」

 それも理由のひとつだが、MS組が本格的に始動すると、深夜早朝と構わず移動することになるし、寺を留守にすることになる。寺に住んでいると、そこいらの言い訳が難しい。離れて住んでいれば、勉強が忙しくて立ち寄れないで済む。

「あーそうか。まあ、、来られる時は来い。おまえさんは、特に歓迎だ。」

「あははは・・・ありがとうございます。」

 たまねぎの皮を剥き終わると、次に、ネギだ。こちらは、五センチぐらいの長さに切って冷凍してある。それを軽く解凍するべく電子レンジに入れる。その間に、親猫がたまねぎを刻む。さすがに、五個も刻むと泣く羽目になる。

「うわぁおー、レイがねーさんを泣かしてるぅーーーー。」

 おやつを摘みに来たシンが、タオルで顔を拭っている親猫と、それを心配そうに眺めているレイをからかう。まな板の上に、だまねぎの千切りはあるのだから、状況は理解している。

 しかし、それを理解していないのが、居間から走りこんできた。取り込んだ洗濯物の山を積み上げていた紫子猫だ。ぼろぼろと泣いている親猫に、きっっと、レイを睨みつける。

「レイ、俺のおかんを泣かすとは、万死に値する。」

「まったくだぜ? レイ。 俺のねーさんを泣かせるなんてさ。」

 シンは、わかっていてからかっているので、余裕の態度だ。で、違うんだ、と、親猫は言いたいのだが、なかなか涙が止まらなくて手を振るばかりだ。

 で、騒いでいたら、墓所の草むしりをしていた悟空が戻って来て呆れたように、シンと紫子猫に、軽く拳骨した。

「おまえら、遊んでないで手伝えよ。ママ、今日のオヤツは何? 」

 ばしゃばしゃと、顔を洗って涙を止めている親猫に、悟空は尋ねる。たまねぎを一杯使う料理は、該当するものが多くて、特定できない。

「親子丼かチキンライスのどっちか。」

「俺、親子丼がいい。」

「ねーさん、俺もっっ。」

 全員、親子丼であるらしい。まあ、ひとつに絞ってくれたほうが、作るほうも楽だ。じゃあ、親子丼な、と、作業を再開する。あとは、ニワトリとたまねぎとねぎを、甘辛く煮て卵でとじれば完成だ。

「やっほーい。」

「お邪魔します。」

 どうやら、キラとアスランもやってきたらしい。廊下で叫んでいる声がする。さらに、坊主も帰って来たのか、スクーターの音がする。ありゃ、酒の肴の用意ができてない、と、親猫は慌てているが、悟空が、「モロキュウとナメタケでいいんじゃね? 」 と、手抜きを推奨していたりする。慌しいのだが、どこか温かくて楽しい光景に、紫子猫は、口元を緩める。

 いつも通りの夕方の光景が展開する。いつも通りの日常を、満喫して、紫子猫は、宇宙へ戻った。

作品名:こらぼでほすと 休暇5 作家名:篠義