二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

15年先の君へ

INDEX|1ページ/22ページ|

次のページ
 

その1




見上げた先の桜は既に散り始めていた。はらはらと落ちた花びらは風に吹かれ歩道を転がり、誰かの靴底に潰され押し花となる。
天気は快晴。春らしい温かい空気が辺りを包んでおり、俺は着慣れない高校の制服に身を包んでいた。
今日は入学式だった。春の陽気に漏れ出る欠伸を噛み殺しながら、のそりと歩く。と、不意に後ろに押されるほど強い風が吹いた。

(うお、)

ザァと木々が騒ぎ、小さな花びらが雨のように降ってくる。色の薄い青空に薄紅のそれは見事なコントラストで、思わず見とれた。
が、視線を前に戻した刹那。先ほどまでそこには誰も居なかったはずの通りに、男がひとり立っていた。
全身真っ黒な服に身を包んでおり、ようやく春めいた気候になったにも関わらずコートを羽織っている。ファーの付いたフードを頭からすっぽり被り、極めつけは男の顔で不気味な存在感を現す色の濃いサングラス。
彼だけは春から切り取られたように浮いていた。どう見ても不審人物なそいつは、俺と対峙するように真正面を向いている。

「やぁ」

男は片手を挙げまるで旧知の仲のように挨拶をしてきた。辺りに人影はないから、恐らく俺に向かって。

「いい天気だ。絶好の入学日和だね」
「誰だ手前」

見ず知らずの男に不躾な視線を送る。じろりと睨みつけるが、男は怯んだ様子はなかった。

「君はもう来神に決めてしまってるんだね。惜しいなぁ。もうちょっと先だったら阻止出来たのに」

いかにも残念そうな声を上げる。何を言っているんだこの男は。話の見えない話に苛々してきた。

「何のことだ?」
「物は相談なんだけどさぁ、平和島静雄くん」

他人に名前を言い当てられ、ピクリと眉が動く。奴の口元がにっこりと微笑むのが見えた。

「この高校、諦めてくれないかな?」
「あ?」

頭に血が昇っていくのがわかる。気が付けば勝手に左手が傍らの標識を掴んでいた。

「さっきからわけわかんねぇことをべらべらと…」

グッと力を込めれば、それはまるで雑草でも引っこ抜くかのように地面から抜けた。

「言ってんじゃねぇえ!」

片手で標識を振り回す。目の前の男はまるで予測していたかのようにいとも簡単にそれを避けた。
舌打ちして再び振りかざす。仕留め損ねたのは初めてかも知れない。振り下ろされる前に男が地面を蹴って塀に飛び乗った。奴を追って俺もまた標識を塀にぶつける。
けたたましい音を立てて砕けたコンクリートの粉塵が辺りを包み、視界が利かない。肩で息をしながら目の前を睨みつけていると、あーぁ、と背後から声がした。
勢いよく振り返る。コートの男は息ひとつ乱さずそこに立っていた。

「やっぱり君に相談なんて無理だよね。今の君と張り合える自信もないし。他に手がないわけじゃないけど、厄介な奴がいるんだよなぁ」

まるで独り言のように続くそれに向かって俺は標識を投げた。奴は必要最低限の動きでそれをかわす。遠くの道路で、カコンと金属音が響いた。

「じゃあひとつだけ、忠告しておくよ」

男が顔の前に人差し指を立てる。その後ろで、唇が弓なりに曲がった。

「“折原臨也”には、関わらない方がいい」
「はぁ?」

聞き覚えのない名前だ。誰だよと訊ねるより先に、奴が続ける。

「きっと君を挑発してくるだろうけどね。絶対に関わってはいけない。怒りを抑えるなんて君にとっては大変なことだろうけど、頑張ってよ。君の為なんだからさ」
「ああーうぜぇうぜぇうぜぇ!さっきから何なんだ手前は!」

怒りを言葉に換えて吐き捨てる。目の前の男は、ふっと微笑むだけに留めた。

「忠告はしたからね。忘れないでよ、“折原臨也”だ」

再度その名を口にして奴はだっと背を向ける。待ちやがれ、と叫んでみたがその足が止まるはずもなく、角を曲がって直ぐに視界から消えた。

「…っクソ」

昇華されなかった怒りを腹の中に溜め込んだ。砂埃で汚れた真新しい鞄を拾い上げる。
俺が奴と出会ったのは、入学式の朝のことだった。


作品名:15年先の君へ 作家名:ハゼロ