こらぼでほすと 桃色子猫
てってけと、桃色子猫は、自分で台所へ走る。白い切り身を箸で摘んで、坊主は口にした。
「お、うめぇーな。」
「だろ? ほんとは、刺身が一番美味いんだけど、持って帰るのは無理なんだってさ。・・・ほら、ママも味見して。」
こちらに皿を差し出されて、ニールも、ひとつ摘む。何もつけていないが、ちゃんと塩味があって、こりこりしておいしい。
「あ、ほんとだ。おいしい。」
「だろ? えへへへ・・・」
「うふふふ・・・あたしも、頑張ったんだよー。」
「潜ったのか? フェルト。」
「うん、教えてもらった。貝も、たくさん拾った。」
「後で見せてくれ。」
「でかい魚もいたんだけど、ママがまな板サイズって言ってたから、やめたんだ。」
こーんなのーと、悟空とフェルトが広げている手のサイズは、一メーターを越えている。それは、お持ち帰りしてくれなくてよかった、と、内心でニールはほっとする。エビですら、オロオロしている自分には、どうにもならないだろう。
「そういや、トダカさんは、なんで来たんだ? 」
「そのエビが、俺には解体できないので呼び出しました。」
透き通るような白い身を目にして、坊主も、ああ、と、納得する。いかな家事万能女房といえど、原物の解体は難しいだろう。おまえも食え、と、自分の箸で、イセエビの刺身を、女房の口に運んでやる。
「ぷりぷりしてるなーさっきまで生きてたから、鮮度が良いんでしょうね。」
「おまえらも食うか? 」
「俺ら、あっちで、魚系ばっかだったから、もういいよ。なあ? フェルト。」
「うん、あたしも、晩御飯は、ごくーと同じのがいい。」
毎日、海鮮尽くしというわけではなかったが、いつもよりは魚介類を口にしていた。やはり、そればかりだと、ハンバーグなんかが恋しくなる。
「そんなことだろうと思って用意してあるよ。」
ゴールデンウィークの時も、そう言っていたから、洋食メニューを用意した。もしかしたら、キラたちが来るかもしれないと、余分に用意してある。
「夜食も、それでよかったら、あるからな? 悟空。」
「やりぃーじゃあ、夜食はオロシがいい。」
「はいはい。」
「俺は食わないぞ。」
「あんたのは、別に用意してます。おかわりは? 」
「いや、今日はいい。メシちょっとくれ。」
酒のアテにしていた刺身は、綺麗に平らげてしまった。でも、ちよっと小腹が空いているので、坊主はコメも積めておく事にした。
「もうちょっと、刺身も召し上がりますか? 」
「茶漬けにするから、白身と熱い茶をくれ。」
「ママ、俺もっっ。」
白身を醤油につけて、それを熱々ごはんの上に乗せ、ワサビを置いて、さらに、熱いお茶をかけると、茶漬けの完成だ。これが、〆には乙なものだ。
「え? 生ですよ? 」
やっている現場を見て、フェルトもニールも、げっという顔をする。見たことがない料理だ。
「熱い茶とメシで、火が通って出汁が出るんだよ。うまいから、おまえも晩飯でやってみろ。」
わしわしわしと、坊主とサルは、それをはひはひしながら掻き込んでいる。その表情からするとおいしいらしい。それを食べ終わると、ようやく落ち着いたのか、出勤時間ギリギリまで、悟空とフェルトの別荘報告が、延々とされた。どちらも、よほど楽しかったのか、ご機嫌である。それを見ているだけで、坊主も女房のほうも顔が微笑む。こういう楽しい思い出が、一杯あるほうがいいと思うからだ。
作品名:こらぼでほすと 桃色子猫 作家名:篠義