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こらぼでほすと 桃色子猫2

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 シンは、未だに起きて来ない。昨晩、遅くまでレポートと向き合っていたらしいが、それでも、一応、朝は揃って食事することになっている。そういう自堕落がしたければ、寺は不向きだ。スパーンと居間と客間の仕切りの襖を開いて、フェルトが、「朝だよー。」 と、元気に怒鳴る。これで起きない場合は、枕を取られ、最終的に布団から転がされるので、どう熟睡していても起こされる。

「ううううーーーーっっ。ふぇるとぉぉぉぉぉぉーーーー。」

「おはよーシン。朝だよー。」

 低い唸り声が聞こえているから、起きたらしい。坊主も、朝のお勤めが終わったのか、戻って来たので、食事が開始される。ハイネはラボへ引き篭もりで、昨日から留守をしている。





 午後から、アスランとキラがやってきて、手配していた竹も届いた。年少組で、竹を割って節を取り除く作業は始まった。竹を半分に割り、節を取り除いて、それを傾斜をつけて並べる。それを眺めて、ああ、なるほど、と、ニールとフェルトも流すの意味がわかった。おやつの時間頃から、虎とアイシャの夫婦、ダコスタ、鷹、トダカがやってきた。その頃に、装置は完成していたので、早めに始められると、水を流したら、とんでもないことが判明した。悟空が、力任せに割ったので、あっちこっちヒビが入っていた。そこから、だばだばと水漏れしている。

 そこは、まあ、水を多めに流せばいいだろうと、各人が汁を手にして、竹の両側に、陣取ったら、これまた、そうめんが取り除いた節の跡にひっかかって流れないなんてことになった。カナヅチで、節を割っただけだったから、ぎざぎざと節が残っていたのだ。そこへ、細いそうめんはひっかかり、流れてくれない。

「一度、全部、バラして節を取りきらないと無理だね。」

 そうめん流しを知っているトダカが、そう苦笑しつつ、アスランに説明すると、キラたちは、えーーと不満顔になった。結構な労力はかけたのだ。これから、やり直しでは、時間がかかる。

「これは諦めて、タライそうめんにすればどうだい? 次回は、成功するだろうさ。」

「そうだな。ここまで料理も何もかも準備が終わってるんだ。今から、やり直しも無理だろう。」

 寺には、大きなタライがいくつもあるので、そこへそうめんを入れて水から掬い上げて食べる方法になった。本堂の前の広い板間に、料理は準備されているから、そこにタライも置かれる。

「ごめんね、フェルト。」

 せっかくだったのに、と、キラと謝っているが、フェルトは、ううん、と、首を横に振る。

「次の夏に食べさせてね、キラ。すっごく楽しそう。」

「うん、必ず、次回は完璧にするよ。約束ね。」

 来年とは言えないのが、どちらも辛いところだ。たぶん、来年は、それどころではないのは、互いに予想できているからだ。どちらも顔を見合わせて、こっくりと頷いた。次は、再始動が終わったらだね、と、視線で確認する。

「案外、難しいんだな? とーさん。」

「大雑把すぎるんだよ、シン。次の時は、うちのものに教えてもらうといい。」

「そうする。」

「次は、出汁をいれるのも、竹の器にすればいいさ。あれは、なかなか乙なものだ。」

「あーそういうのいいなあー。」

 シンとトダカも、そう話して笑っている。失敗は成功の元とトダカが慰めているらしい。

ちょうど、日が翳って涼しい風が吹いてくる時間だ。本堂から大型の扇風機で風を送っているので、ちょうどいい塩梅になっている。

「オモシロいイベントがあるのネ。」

「ほんとにな。これが成功してれば、なおよかったんだが、まあ、年少組の頑張りに乾杯しておくか? 」

 明日から、プラントに出かけるので、虎とアイシャも、この夏らしいイベントには大喜びだ。ぐるぐるとタライの水を廻して、そうめんを掬っている。箸が得手ではない桃色子猫は、フォークで、それを掬い上げて食べている。

「これ、おもしろいね? ニール。」

「ほんとだな。・・・・おい、年少組、おまえらは、こっちにタライな?」

 ドバドバと氷を放り込み、ニールがそうめんを取り難くしている。ある意味、罰ゲームだ。

「ちょっ、ねーさん? それ、イジメだろ? 」

「でも、冷たくはなってるぜ? シン。悟空、そうめんも大量に入ってるからな。」

 ほれ、こっちだぞーと年少組に命じると、渋々、年少組も、そちらのタライに近寄る。それを見物しつつ、坊主に冷やした缶ビールを渡す。

「そうめんは? 」

「後で食う。アテを適当に取れ。」

「はいはい。フェルト、そればっかり食べてないで、他のも食べろよ? レイ、シンに飲ませるのはセーヴしてくれな?」

 寺の女房が仕切って、のんびりと夏の夕暮れの食事会は進められる。いろいろと失敗はあったものの、花火もやって大騒ぎでお開きになった。

 翌日、桃色子猫は親猫に、「また来るから。」 と、約束して戻っていった。それが、いつになるかはわからないが、早ければ、年末だとは言っていた。

「じゃあ、遅かったら何年か後なんですかね? 」

「俺は知らん。」

 その夜の食卓は、寺の夫婦ふたりだけだった。悟空とシンとレイも見送りやら出発準備の手伝いでオーヴに出かけたからだ。深夜出航なので、そのまま泊まって翌日に戻ってくることになっている。ひっそりしているので、何かしら寂しい気分になる。

「ねぇ、三蔵さん。」

「ああ? 」

「今夜は、そっちで寝かせてくれませんか? 」

 寝てくれる相手がいない。いつもなら、間男とか歌姫とかが、横に寝てくれるのだが、今夜ばかりは出払っている。一晩くらいと思うものの、これは寝られないのはわかっている。

「客間に布団を敷け。酔い潰れるまで相手してやる。」

 ぶっきらぼうに、そう言われて、女房は大笑いする。なんだかんだと言われているが、三蔵は、かなり優しい性格だ。言動と行動が、あれだが、お願いすれば、聞き届けてはくれるのだ。それも、一緒に寝て欲しいなんていう、ちょっと普通ではないお願いでも。

「あははは・・・あんたは、俺にはもったいないくらい、いい亭主ですよ。」

「当たり前だ。」

 亭主は、ダブルベッドなのだが、振動でどちらも起きてしまうので、そこでは寝かせない。だから、こういう場合は、客間に布団を並べることになっている。客間の準備をして、ふたりしてもさしつさされつして飲む。時計は、そろそろ出航の時間だ。

「早く戻ってきて欲しいな。」

「・・・・・おまえ、それは早すぎるだろ? 」

「・・・・だって・・・」

「明日から、どうせシンとレイも、うちに帰ってきて煩いぞ? 今夜だけだ。」

「わかってますよ。」

「ほれ、亭主の酌だ。」

「はい。」

 さっさと酔わせて寝かせてしまおう、と、坊主は原液まんまの焼酎を、グラスに注ぐ。女房のほうも、わかっていて飲み干した。すぐに、女房は背後に倒れる。



・・・・しかし、こいつ、こんなんで保つのか?・・・・・