それいけ天魁星
それいけ天魁星
「マクドールさん、一緒に学校、行きましょうー」
子犬なら尻尾をちぎれんばかりに振っているであろう感じでニコニコとリオウがティルを迎えにきた。
2人は近所に住んでいた。
昔から、ではなく、最近リオウがここに引っ越してきて、たまたま引っ越しの挨拶に訪れた時にティル・マクドールが対応し、なぜかそれ以来とてもなつかれている様子である。
「ああ、分かった。」
そう言いながらティルが出てくる。と、その後ろにはもう一人。
「なんでまたリオウがいるんだよ。」
「マクドールさんと一緒に行きたいからでーす。テッドさんこそなんで居候してるんですか?」
しれっと答えられ逆に質問され、テッドはうっ、となっていた。
ちなみにこの春、ティル・マクドールは幻水高校の2年、テッドも同じく2年に在籍。リオウは1年生になったばかり。
テッドはティルの父親の知り合いの関係で少し前からマクドール家に居候しており、ティルとは親友であるらしい。
リオウにもジョウイという親友がいるが、彼とはこの引っ越しでめったに会えなくなってしまった。
3人が校門に着くと何やら服装検査でもしている様子で、すこし着崩しているテッドはゲ、と顔を歪めながらティルに言った。
「ちょ、俺めんどくさそうだから違うとっから入るわ。」
「違うとこって?」
「まぁ、ちょっとした抜け穴だよ。じゃぁな。」
そう言ってニカっと笑うと、テッドは走っていった。
「テッドさんて面倒嫌う割に面倒な事しますよねー。」
まったくもって悪気がない様子でリオウが言うのに苦笑しつつ、ティルはまあね、と返した。
難なく進んだ2人が歩いていると、声をかけられた。
「そこの君たち。クラブはもう入っているのか?」
振り返ってみれば、美形であるがほぼ表情がない、という非常に残念な人が、声をかけてきたようであった。ネクタイも締めずかなり適当に制服を着ているようである。
その隣ではきちんと制服を着てニコニコしている、これまた美形な人が立っている。
「え?ああ、特に・・・。」
思わずティルは答えていた。
「そうか。だったら蟹愛好研究会はどうだ?」
「「失礼します。」」
ティルとリオウは声をそろえてニッコリと去ろうとしたが、その横の人がニコニコしたまま付け加えた。
「ああ、この人の言う事は無視して?普通に釣り部だから。」
釣り。
実は釣りなら2人ともけっこう好きだった。
ティルはすでに2年だが、特に入りたいクラブもなかった為(助っ人依頼はあるが)、無所属のままであった。しかし釣りがあるとは知らなかった。
「釣り部なんてあったんですか?」
「いや、俺が作った。」
蟹云々とふざけた事を最初にのたまった方が言った。
色々と微妙な人物ではありそうだが、釣りに対して断る理由もなかった為、放課後に入部届けを持って行く、とティルとリオウは約束した。
放課後、ティルとリオウとそしてテッドは部室にしているらしい調理室へと向かった。
・・・調理室・・・?釣った魚を食べるためとか・・・?まさか、ね・・・ティルは何気にそんな事を考えながら歩いていた。
「てゆうかなんでテッドさん来てるんですか?」
「いいだろ、別に。」
「あ。ここだ。」
ティルが調理室のドアを開けた。
「ああ、きたか。」
朝ふざけた事をぬかしていたここの部を作った人物が言った。
彼の名前はラズロ。
その横には朝と同じようにニコニコと立っている人物がいる。
そちらはキリル、という名前で、2人とも3年生のようだ。
「じゃあラズロ先輩が部長さんなんですか?」
リオウが聞いた。
「いや、俺ではない。俺はもともとリーダーは向いてないからな。やむを得ずする場合は自分の存続自体が危うくなってそのまま巻き込まれる時くらいだろうな。」
「いや、そんな状況想像できないし。」
ティルがおもわず即座に突っ込んでいた。
「別にいいんじゃね?俺はそんな奴が部長とか無理だって思うぜ?」
「む。なんだテッドか。お前も入りたいのか、このツンデレ野郎。去年はえらくツンだったくせに今年はえらくデレたもんだな。」
「う、うるせえ、変な言いがかりつけんな!!」
ラズロはあくまでも淡々と表情も変えず、テッドはあきらかにムッとした様子でにらみ合っていた。
「あれ?テッドさんてラズロ先輩と知り合いなんですかね?」
リオウがコテンと愛らしく首をかしげて言った。
「ああ、そういえばどこかで、と思ってたけど・・・テッドが2年の時同じクラスだったんだっけ。」
ティルが呟くように言った。
リオウがそれを聞いて、ん?という顔をした。
「・・・テッドさんて今まさに2年生でしたよね?」
「2回目なんだ。」
「成程。」
いたく納得しつつ、同じクラスだったにしてはえらく仲悪そうだなーとリオウは思った。
ティルはあまり褒められた雰囲気でないにも関わらず仲裁する気もなさそうなキリルに向かって聞いた。
「じゃあキリル先輩が部長を?」
「ああ、いや、僕は違うよ、てゆうか実は部員でもないんだ。」
あは、と笑いながらキリルは答えた。
じゃあ、なぜいる?という言葉を飲み込みつつティルはさらに聞いた。
「では他に?」
「ああ、うん。この間ラズロがスカウトしたんだ。3年のね、ファルーシュくんていう・・・ああ、どうやら彼も来たみたいだね。」
「てゆうか何かキラキラして・・・何これ?」
リオウがまぶしそうにしてると、部室(調理室)にそれはそれはキラッキラとした誰かが入ってきた。
「はじめまして、そういう事で部長をすることになった、ファルーシュ・ファレナスです、よろしく。」
なぜいきなり入ってきて自然に会話に加われる!?
ティルとリオウは少し遠い目になりそうであった。しかもなんだかキラキラだし。空気も読んでないし。
とりあえず早くも気を取り直したリオウが挨拶した。
「あ、どうぞよろしくお願いします、ファルーシュ先輩。」
「やだなあ、そんな、先輩だなんて堅苦しい。」
ニッコリとファルーシュは言った。
「僕の事は王子、または王子様と呼ぶといいよ。」
何この人!?
ティルは全力で否定したかった。
「よろしくお願いしまーす、王子。」
その横でリオウはあっけらかんと言っていた。
リオウ、順応早すぎ・・・さきほどから心の中では突っ込んでばかりで少しティルは疲れてきた。
「さあ、君も。」
ニッコリ、キラッキラしながらファルーシュはティルに向かって言った。
ティルは直視できず、目を斜め下にそらしながら、いえ、そこはやはり部長でお願いします、とそっと言った。
「えーそうなんだ、それは残念だなー。」
そんなティルの手を持ってファルーシュが言った。
「何どさくさにまぎれてマクドールさんの手を握ってるんですかね、てゆうか王子、部長なんでしたらそこで険悪状態になってる2人のいがみ合いをなんとかして下さい。すでに机ひとつ壊してますー。」
ほんのり黒い笑顔でリオウは手を離させて、ファルーシュに言った。
「いやあ、意見のぶつけあいは時として必要だよ?」
ファルーシュはあはは、と正論風にいかにもさわやかにキラキラとしつつ言った。