東方無風伝 その5
「お疲れ様、風間殿」
一日開いた妖夢との稽古を終え、庭から戻れば、藍が手を叩きながら出迎えた。
「なかなかの試合だったではないか」
「なに、まだまださ。妖夢はあれでも手加減している。近いうちに越してみせるさ」
手加減をする余裕が有る程に、妖夢には剣術の才能と実力がある。それだけのこと。
越してみせる、と言っても本当のところはその気はない。あくまでも、自己保身の為に剣術を修行をしているだけ。自分の身を守れる程度の力があれば、それで十分だ。
まぁ、妖怪達の力は強大だ。もしかしたら、妖夢を越す程の力が必要になるかもしれないが。
「風間殿、少し気になることがあるのだが、良いかな」
「事によるな」
「風間殿は、これから先どうするつもりなのだ?」
それは昨夜八雲紫に聞かれた質問の一つだ。
「それについては、昨夜八雲紫に話したが」
「答えてはいなかっただろう。あぁ、警戒しないでくれ。別段、私は紫様の手先として訊ねているのではない」
「一人の妖怪として、か? 俺が白玉楼を出て行ったら、夜闇にでも紛れてがぶり、か?」
「そうではない。ただ、風間殿を案じてのことだ」
「俺を? 妖怪が何故人間を心配する」
「私を其処らの低俗な連中と一緒にしないでくれ」
妖狐の眼は真っ直ぐに純粋な高貴な眼で、人間以上の人間らしさが秘められていた。
「解ったから、そんな眼で俺を見ないでくれ」
人間に犯されそうだから。
「白玉楼を出たら、人里とやらにでも移住しようかなと考えているよ」
それくらいしか出来るような事など無いだろうから。何処かで働き口でも探して、霊夢から『借りた』なけなしの金くらいで数日は飢えを凌ぐくらいは出来るだろうし。苦しい生活となりそうだが、堅実な生き方だろう。
「このまま白玉楼に住まうとか考えないのか」
「そうだな……いざとなれば、西行寺なら受け入れてくそうだし、そうするかな。いざとなれば」
あくまでも最後の手段と言うのを強調して。確かに白玉楼は妖怪に襲われることもなく、食い扶持くらいは今まで通り白玉楼で出してもらうというのは楽だろう。だが、それでは何の意味も無い。
俺は生きる為に、こうして剣術の修業をしているのだ。



