東方無風伝 その5
「あまり調子に乗るんじゃないわよ、風間。どうして私が貴方みたいな存在に恐怖しなくてはならないの。未知。ええそうね、貴方の存在はイレギュラーよ。それでも、畏れる程ではないことよ」
「なら何故放っておかない。これからの動向を見て、どうするつもりだ」
「そんなもの意味なんてないわ」
「監視する為だろう。そして、自分に都合の悪い存在ならば、消す為に」
「貴方は自分を過信し過ぎね。それとも私を見くびっているのかしら? いえ、その両方ね。貴方は脅威にならないわ」
「そうかい? 自分にとって、幻想郷にとって害をもたらす存在ならば消す。自分の楽園を守る為ならば手段を厭わない。そんな狭苦しい世界を宝石みたいに扱うお前さんが、恐怖である未知を放っておくのか?」
「風間、貴方は少し、自分がどれだけ小さな存在か知った方がいいわ」
その言葉と同時に、八雲紫との距離は一瞬で短くなり、直ぐ眼と鼻の先までになる。
首筋には八雲紫の扇子が当てられる。もしこれが鋭利なナイフだとしたら、俺は血を噴水の様に抜いていたことだろう。
「紫様! お戯れが過ぎます!」
「黙ってなさい、藍。この男に、自分の立場を思い知らせた方が良いわ」
扇子に少しの力が込められて、顎を上向きに押される。
「それで、殺すのか?」
「どうしましょうか、貴方の態度次第ね」
貴方が死んで、困るモノはいないもの。そう付けたして八雲紫が言う。
「いや、困るモノはいるぞ。俺が死んだら、霊夢は借金の取り立てが出来ない。この場が血で汚れたら、掃除に妖夢が困るだろう」
「風間、貴方に選択肢を上げるわ。一つは、矮小な人間としてこれからも幻想郷で生きるか、今すぐ此処で死ぬかよ」
「『聡明で見目麗しい八雲紫様、貴女様に盾突いた愚かで汚ならしい私目を、貴女様の深い御慈悲でお許しください』、そう言って欲しいのか?」
「貴方の態度次第よ」
繰り返す八雲紫。
その眼を睨みつければ、八雲紫は何時も通りの意地の悪い頬笑みを浮かべているだけだった。
「八雲紫、貴様とて同じことだ。いや、俺以上に、人間以上に愚かしい」
「なんですって」
「自分の力を過信し、まるで自分が幻想郷の神になったかのようだ。思い上がりも甚だしい。貴様こそ、自分がどれだけ小さな存在か、思い知った方が良いのでは?」
腰の刀に手を掛けて、それでも目線は変わらず八雲紫の眼へと向けながら言う。



