東方無風伝 その5
「ああ、またヒントを与えてしまったな。もうこれ以上与えるつもりが無かったのだが。やはり、お前さんと話すのは楽しいな。つい要らんことを話してしまう」
「私は……過去に貴方と会ったことが有ったかしら」
「有ると思うなら、思い出せ。無いと思うなら、考えろ」
八雲紫ならば、考えればそのうち答えは出るだろう。まぁ、八雲紫のことだ。その答えを自ら否定し、また別の間違った答えを探しそうだが。
「貴方については、大体解ったわ」
「そうかい。ま、精々悩んで答えを探すことだ」
「それで、最後の質問よ」
「おや」
正体はもう良いと言っておいて、まだ何か聞くことが有るのか。
「貴方はこれから、どうするつもりかしら?」
「あー?」
どうすると言われても、そんな漠然とした質問は答え辛い。もっと内容を固めてくれないと答えようがないと言うものだ。
「何時までも白玉楼に居座るつもりかしら? それとも、人里や、何処か他の場所に居座るとでも?」
「なんだ、俺を幻想郷から追い出したいのか?」
「そんなつもりは無いわよ。幻想郷は全てを受け入れるわ。人間だろうと、妖怪だろうと、生だろうと、死だろうと、喜びだろうが、悲しみだろうが」
「なぁ、八雲紫」
「なによ」
「お前は何を恐れている」
八雲紫が止まった。
「私が何を恐れていると思って?」
「お前が知らない未知」
「……はっ」
まるで風船の空気を抜くように八雲紫は笑いだした。腹から大きな声を出し、それこそ、死ぬのではないかと不安になるほど。
「私が! 私があなたを恐れていると! そう言いたいの、風間!」
「その意味も含まれている」
未知とは恐ろしい。自分が知る常識全てを根底から覆し、それこそ自分が信じた世界が否定されることまでもある。
人間が『火』を知った時だって、初めは恐れた。熱い、痛い、危険だと恐れた。だが人間は、この火の恐怖を克服し、自分のものとした。
八雲紫は未知を恐れ、それを遠ざけ、それでいて自分が監視出来る位置に置こうとしているのだ。



