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国城 龍耶
国城 龍耶
novelistID. 24182
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東方無風伝 その5

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「全てにおいて人間に勝る力を持っている。そのことを自覚している。それは慢心を生む」

「そうね、例えば、一国の王となった者は、自分ならば世界をも手中に出来ると調子に乗るわね」

「例えば、自分の恐怖は根源から叩き潰そうとしたり」

「恐怖とは、誰にだってあって然るべきモノ。潰そうだなんて思わないことね」

「だが、抗う行為とて、あって然るべきモノ。怖いものは怖いからな。逃げたくて仕方が無いさ」

「そう言う貴方の恐怖は何かしら?」

「饅頭が怖いな」

「あの蟲の卵を彷彿とさせるつやっとした丸いフォルム」

「そして中身の餡子が――――」

「はいはい、其処までにしましょうね」

 俺の眼の前、八雲紫と俺の間に、突然酒が注がれた杯が現れる。

「西行寺」

「幽々子」

 杯を差し出した人物は、西行寺だった。
 何時も通りのあの柔らかな笑みを浮かべたまま、彼女は言う。

「何時までも下らない腹の探り合いは止したらどうかしら? 此処は酒の席よ。呑んで騒いで楽しまなくて、損というものじゃなくて?」

 西行寺が差し出す杯を一瞥。
 顔を上げれば、呆れた様子の八雲紫と眼が合う。

「その通りね、幽々子」

「全く以ってその通りだな、西行寺」

 西行寺の言う通り、此処は宴会場だ。楽しく騒ぐ場所なのだ。辛気臭く下らない話を、武器を構えながらする場ではない。
 俺の持つ刀、鬼灯を下げれば、八雲紫もほぼ同時に扇子を
下げる。

「頂くぞ」

「どうぞ」

 西行寺の持つ杯を受け取り、ぐいっと飲み干す。空になった杯を置き、口元を拭い八雲紫に声を掛ける。

「八雲紫、貴様も呑んだらどうだ? 此処に来て一滴も口にしていないだろう」

「そうね、藍、酌をお願い」

「畏まりました、紫様」

 突然の下らない命令にも文句の一つも言わず実行する藍。部下としては、彼女は優秀なのだろうな。

「ん?」

「何が……」

「始まったわね」

 その変化に気付いた俺と藍が同時に疑問の声を上げれば、西行寺は予見していたかのように始まりを告げた。
作品名:東方無風伝 その5 作家名:国城 龍耶