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家庭教師情報屋折原臨也9-2

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 次に目が覚めた時、臨也の目に入ってきたのは新羅の家の天井だった。
 ――― なーんか、前もこんなことあったなぁ……
あの時は自分の家だったけど。臨也は心中でごちた。
鎮痛剤は十分に効いているようだが、背中と脇腹の違和感はどうしても拭えなかった。そっと手を這わすと包帯が丁寧に巻かれていた。
「…ってて」
横を向き肘を支えに起き上がり、大きい枕を背もたれにして臨也は体勢を変えた。外に目を向ければ、あの晩のことがまるで夢であると思わせるくらいに、清々しい青空と街の景色が広がっていた。高層マンションの上部のため人間の姿までは見えないが、何もないよりは良かったかもしれない。
 背後で扉の開く音がした。顔だけそちらに動かすと新羅が入ってくるのが見えた。
「起きたみたいだね」
手には朝食と思わしきものを乗せたトレーがあった。新羅はそれを傍にあったテーブルに置き、ベッドの横に置かれた椅子に腰を下ろした。
「今何時?」
「朝の九時半。ついでに言えば君の記憶している日付から二日ほど進んでいるよ」
「二日も寝てたのか…」
そんな感覚は全くなかった。確かに言われればところどころ関節が動かしにくかった。
 新羅は新聞のある面を臨也に見せた。
「彼ら捕まったよ。いろいろヤバいものが見つかっちゃって、そのまま大検挙」
「そう」
「流したんだろう。あそこの情報」
やれやれと言わんばかりに新羅は両手をあげ、首を振った。どこまで危ない橋を渡るのか。
それを見て臨也は笑った。
「こういうことも予想しておかないと情報屋なんてやっていけないからね。かなりの時間を費やしたんだから。でもたまにはこういうのも悪くないと思っているよ」
「大怪我することがかい?」
「いや?恨みをかうのは当然なことだ。誘導してそのまま従ってくれる奴もいれば、今回みたいにざっくり来るやつもいる。はっきり言って今回は俺の完全な失敗だ。まぁ、何事もなくことが進むのは結構なことだと思うけどやっぱり刺激ってほしいよね」
果たしてそれは本心なのか怪我をしたことへの言い訳なのか。新羅はそれを聞き流しながら答えた。そして意味深い一言を口にした。
「君はそう思っていても、そう思わないやつもいることを忘れない方がいいよ」
嫌な予感が臨也の背を走った。まさか。いや、でも。
「……それはどういう」
「入ってきなよ」
すると、扉が控えめに開けられた。そして現れたのは。
「よぉ」
「!」
臨也は息をつめた。嫌な予感が当たってしまった。
静雄だった。今一番会いたいようで、一番会いたくなかった。
「じゃ、僕は向こうにいるから」
「おい、新」
引き留めるも空しく、臨也の手が届く前に新羅はぱっと身を翻して部屋を出て行った。代わりに静雄が今まで新羅がいた位置に立った。
「じゃあね」
ぱたんと扉は閉じられた。
静雄からはわずかに冷たい外気が感じられた。つい先ほど来たのだろう。コートを着て口元を隠すようにマフラーを巻き、手はポケットに入れられていた。肩には鞄と紙袋が掛かっていた。いったい自分は何度彼に会って驚かなければならないのか。臨也は頭を抱えたくなった。
「あー、静雄、君?」
「……」
返事はない。無言で見下ろしてくるままである。その眼は厳しい。鋭く、そして重い。いたたまれなくなり、臨也は少し後ずさりした。
「なんかすごく怒りのオーラが見えるなぁ、なんて」
あまりの重圧に耐えかねて軽い調子で言ってみれば、かえって気に障ったようで静雄の視線はさらに厳しいものに変化した。
「そりゃそうだろうな、俺は今キレそうなのを我慢してるからなぁ」
「俺の命無いね」
臨也は本気で顔が引きつった。静雄の怒りの表情は結構、いやかなり怖かった。そもそも長身で力が強いのだから、迫力があった。ところがその表情は溜息一つで一瞬にして消え去った。静雄は荷物を足元に下ろして、椅子に静かに座った。そして俯いたまま言った。
「本当、心配したんだからな」
「……ごめん」
その態度の急変についていけず、臨也は視線を泳がせて曖昧に返事を返した。しかしその返事に静雄は不満だったようで、すぐに切り返した。
「謝ってすむか。時間になってもお前来ないし、電話かけてもでねぇし、嫌な予感がして街ん中また走り回って、俺が通らなかったらお前、死んでたんだぞ」
「うん、本当あの瞬間は聖夜の奇跡とやらを本気で信じたよ」
あの状況で静雄が現れるなどまったく考えようもなかった。決死とまではいかないが、ある程度の重傷は覚悟の上だった。メスで切られ薬を打たれ拳を受けた。一般人としては重傷だ。
――― パソコン叩いたから、引き下がったってのに
俯き、静雄は膝の上で拳を握った。やはり無理を言えばよかった。そんな考えが頭の中を巡った。このどうしようもない感情を今言わないでいつ言うべきか。静雄は小さく息を吸った。
「……怪我したお前を見た時どうしようもなく焦った。何もできない自分が悔しかった。このまま目を覚まさないんじゃないかって不安だった。あの時見つけられなかったらって思うと今でも怖くなるんだよ。自覚があるかって言われたらまだ自分でもよく分からないしこれがそうなのかもわからないけど、俺は臨也がっ」
だんだんと速くか細くなっていく静雄の言葉に臨也は目を見開いた。しかし、その先はなかった。静雄は小さく笑った。
「って、例外の奴なんかに言われたって、「それって前に俺が言ったことに対する返事と捉えてもいいってこと?」……は?」
返事?返事ってなんだ?静雄は目を丸くして臨也を見た。
「俺は、例外なんだろ?」
「そうだよ」
「返事、って」
何が何だかわからないといった様子の静雄を見て臨也は苦笑した。
「多分、俺の例外って言葉の意味は静雄君が思ってるのと真逆だと思うよ」
「は……ッ?!」
臨也の意図に気付き、静雄の頬は紅潮した。あの時考えた、ありえないと思っていた以上のことが今目の前で起きている。
「うん、俺も馬鹿だった」
可能性を狙って、敢えて誤解を招くような言い方をしたのかもしれない。臨也は静雄の頬に手を伸ばした。そろりとなぞると、静雄は目を伏せた。
 臨也は一音一音、丁寧に発音した。
「好きだよ、君が」
「……俺は」
言葉が終わる前に、臨也はそのまま手を首の後ろに回して手前に引いた。そのまま静雄の顔は臨也の方に動き、触れるか触れないかの至近距離で止まった。目を開くと、真っ直ぐな視線が自分に向いていた。最初に感じたような違和感は何もない。これは嘘じゃない。
「断るなんて許さないよ」
「……横暴、だな」
静雄は臨也の手を取ると緩く握り、そのまま肩口に顔をうずめた。薬品臭い中に、あの時消えかけていた臨也の匂いがちゃんとあった。そしてそのまま臨也は後ろに倒された。
「静雄君、俺結構重傷なんだけど」
「るせぇ、黙ってろ」
背中や腹が悲鳴を上げるが、鎮痛剤のおかげで耐えれないものではなかった。それ以上に優先すべきものが今自分の腕の中にあるのだ。肩から感じられる温かさを、臨也はあえて追求しなかった。