春の目覚め・3
用意された部屋。周囲には状況を見守ろうと各国のジャーナリストたちが遠巻きに待機している。
西ドイツ側が入って来たらしい。上司と思われる男の背後に付き従うドイツの姿。
戦後の最後に見た姿から、また随分と逞しくなったように見える。
立派にやってるみてぇじゃねぇかよ。プロイセンは薄く笑いを澪した。
やはり、顔を見れば嬉しいと思ってしまうもの。じっと見詰めてやれば、ドイツがその視線に気付いた。まさか、この場に直接プロイセンが出てくるとは思ってなかったのだろう、ドイツは驚きと歓喜の表情のまま固まってしまった。
そんなドイツに向かって、「何をしてくれてんだ、バカ」と口だけを動かして言ってやる。
それに気付き、ドイツは慌てて表情を厳しいものに変えて、同じように唇だけを動かして言い返してくる。「文句を言われる筋合いはない。やりたいようにやってるだけだ」と。
言うようになったじゃねぇか。
腹立たしさは、すっかり萎えてしまっていた。
この俺様が消えずにいることを呪いとか呪詛とか言いやがったっけな、ブランデンブルグのやつは。
そういや、バイエルンの野郎は俺が消えたらドイツは正気を保てないのではないかと気にかけていたな。
ドイツの感情が執着が、プロイセンを今尚この地上に留めているのならば、本当にドイツが消えてしまうその時まで消えることは叶わないと思っていいのだろうか。消える時は共にと考えてもいいのだろうか。
まだ、ここにいることに存在することに、価値を求めていいのだろうか。
きっとこのまま東西に別たれたままになるだろうが、それでも、ドイツと同じ世界に存在し続けることを許されるのだろうか。
もう少しだけ、弟と共に同じ時代を生きていくことを許されるのだろうか。
ロシアは、再び起き上がったプロイセンを見て、涙目になって喜んでくれていた。純粋に、奇妙な機能停止という形を取ったプロイセンを心配してくれてたらしい。
だったら、ベルリンに建てたあの壁をどうにかしろと言ってやったが、それとこれとは話が別だよ、とロシアらしい回答が返ってきただけだった。
僅か数時間で終わってしまった会談。上司たちには実りある会談になったのかどうか。
ドイツは再び目覚めたプロイセンの姿を見れただけで満足そうではあったが。ただし、半泣きの目は隠せてなかったが。
仕方ねぇから、まだまだ甘ちゃんのドイツの為に消えないでいてやるぜ、と半ば言い訳じみた言葉を呟き、難しく考えることは放棄する。
とりあえず、こうして直接会える機会は貴重らしいので、ドイツにバナナなどのこちらでは寝てる間に高級品になってしまっている果物を寄越せと さっそく注文してみた。もちろん、上司に見つからないように水面下での取引の要求である。
泣き笑いから苦笑いに変えて、ドイツはただ黙って頷いていた。
――了――