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猫日和

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猫 日 和



半夏生


「ニャンコ先生?いるのか?」返事がない。
「ニャンコ先生」いないのかとつぶやいて溜息ついて布団に入る。

「なんで返事しないんです?」窓の外にあやかしの気配。すっと通り抜けて中に入ってくる。
「ヒノエなにしに来た」
「噂通り見えないようですね」
「声も聞こえないぞ」
「依り代に入っていればいいでしょう」
あやかしの毒に当たって普通の人のように見えなくなった夏目のそばに本性の姿でたたずむ。
「なに怒っているんです?」
「怒ってなどおらんわ」
「だったら意地悪しなきゃいいでしょうに。泣きそうでしたよ」
「ふん」
「夏目はレイコとは違うんですから。抜けていてもしかたないでしょう」
「分かってるわい」
「ああ…」ヒノエはニヤニヤしてる。
「やきもちですか」
「そんなわけあるか!」
「どこぞの女の子の所為でこんなめにあったんでしょう?」
「あれは間抜けだからだ」
「まあ」ほほほ。やせ我慢ですかと笑われる。
「違う。どこぞの馬鹿があっさり攫われた上に眼を舐められおって!自分が誰のものかわかっとらん。懲らしめだ」そこが気に入らないのか。
一瞬言葉に詰まってから扇子を仰ぎだす。
「お熱いことで…」
「なんだと!」
「精々他に取られないように気をつけなさいまし」と消えてしまう。
「当たり前だ」と寝てる夏目を囲むように丸くなってじっと見る。目を離すといなくなってしまうとばかりに。





山茶始開


黒いニャンコって可愛いな… と言う呟きが耳に入る。窓から外を見ながら何かしみじみ言っている。
別に聞かせるために言っているわけでは無さそうだがあの大騒ぎで助けてやった恩を忘れて何を言う。
大体寸分違わず色違い。ラブリーさは同じだろう。何故黒が可愛いのだ!

「どういう意味だそれは。まったく誰のおかげで今回の山が解決したと…」
「まだらさまいっそ一緒に帰りませんか」思いもしない誘いに夏目を見るとぼーつとした顔で見てる。

ボケてるのか驚いているのか読めない顔だ。行って欲しくないなら何とか言ってみろと思うがこれも遠慮しているのか表情を変えない。可愛くないな…。
「いや今しばらくわたしはこれの傍にいよう。あっという間のその時まで」ふと口から出た言葉は今の本心だろう。

夏目は微かに笑うと
「ありがとう」と言う。
その様子は短命な人の子でもより儚げだ。少しはレイコに似れば良いものをもともと覇気がない。
あのレイコでさえ短かったのにこんなボケであやかしに係わるなぞ自殺行為だ。そのくせ全力で係わる。私の言うことを聞かない。困ったものだ。

「う〜素直なお前は気持ちが悪い」と身震いしてみせる。少しは身に沁みれば良いが…どうせ馬の耳に念仏。
寂しそうに去ってゆくあやかしを見送る夏目を見ると面白くない。すかさず飛びついて肩までよじ登り頭をたこ殴り。

「この浮気もの!」
「なんだよ!浮気って。変な言葉使うな」
「だれかれ構わず色目使いおって」
「色目…」おー言葉に詰まっている。ふん!と思っていると振り落とされ上から拳骨が降ってくる。

「この…ばかニャンコ!日本語勉強しろ!」
目から火が出た…。
ぐわんぐわんする頭を抱えながら
「この恩知らず!」
「恩てなんだよ。デブ猫」
「なんだとー。このラブリーな姿を見て何ぬかす!」
「ぶさ猫!おなじ模様でも黒い方が可愛かったぞ!」

一度ならず二度までも…。

「夏目のばかー」

窓から飛び出してしまう。
通算何度目の家出?




温風至


河原でのんびり昼寝してたら視線を感じた。殺気?俊敏に起きようとしたら抱き込まれる。むぎゅ。
「う〜ん。いつ見ても可愛い。ぼよんぼよんなこの抱き心地」と一段と力をこめる。
「ええい!離せ!離さんか!」
と言っても何を言っているかわからない多軌にはニャーニャー鳴いてるようにしか聞こえていない。
ジタバタして「夏目!助けろ!」と言うと何をぼーつとしていたのかやっと動く。

「多軌。落ち着いて力緩めてくれ。ニャンコ先生が嫌がっている」
「可愛いーっ」ぎゅうぎゅう抱きしめている。
聞いちゃいない…。

「ぎゃー。中身が出る!なつめー!」
息が出来なくて動きが止まる。
「わぁ〜。ニャンコ先生」慌てる夏目の声を聞きながら力が抜ける…。

「ごめんなさい。ごめんなさい。可愛いものをみると歯止めが利かなくて」
白目をむいてるニャンコ先生を仰ぎながら言う多軌に
「ニャンコ先生を可愛いなんて言う兵は多軌ぐらいだよ…」と力なく応えて体を揺する。

「ほら。ニャンコ先生起きろよ。可愛いって言われて嬉しくて気絶したのか?」
なんだと。このラブリーなわたしが嬉しくて気絶などするわけなかろう。
「違うわ!!ぼけー!」と夏目に頭突きを食らわす。

綺麗にお腹に入って引っくり返る。
「いったいなぁ!」と人の頭を押さえにかかる。
跳び起きて応戦だ。

「何するんだよ」
「お前が早く助けないから息が止まったんだ」
「仕方ないだろ聴きなれない言葉に空耳かと思ったんだから」
「なにをぉ!十分可愛いではないか」
「何処が可愛いって?」と言い合いながらどたばた騒いでると
「やっぱり可愛いー」と抱きしめられる。

いかん。どうも多軌とは間が悪いようだ。
「夏目!助けて!」ぎゃあぎゃあ騒いでいたら多軌の腕からするっと取り上げられた。

「何やっているんだよ。ニャンコ先生。逃げ出すなんて簡単だろう。いくら手足が短いって言っても動き回ってれば隙間が出来るんだから」
「ありゃ?」降ろされてから
「手足が短いってのは余計だ!」と叫んだが聞いてない。

「夏目君。ニャンコ先生貸して!」
「は?」
「一日で良いから」
「と・言っているけど。どうする?」
「わたしは嫌だぞ」
「本人嫌って言っている」
「えー。どうして?」と抱きつかれる。
「一緒に寝ようよ〜」
「離せー!」
「えびでも中トロでも食べさせてあげるから〜」えび。中トロ。美味そう。とついボーっとしてると鞄に押し込まれて
「じゃあね。夏目くん」と走り出している。鞄から顔だけ出して遠ざかる夏目の名を呼ぶがどんどん遠ざかっていく…。

ぎゅうぎゅう抱きしめている多軌が寝付いたのを見計らってそっと逃げ出した。起きたらまた捕まるかと急いで走って二階の窓に体当たりする。
「おかえり。早かったね」
「何が早かったね だ。よくも見捨てたな」
「大げさだな。食べ物に釣られた先生が悪いんじゃないか」
「釣られて無いわ!」
「え?頷いていたぞ。だから多軌を止めなかったんだけど」
「頷いてないぞ!」
「いーや。目を細めてうっとりして頷いていた。食べさせてくれたんだろ?」
「それは」確かにたらふく食べたが頷いた記憶などない。

「食意地が張っているんだから」と言われた。
「違うー!」多軌は苦手だ。

その後何度も多軌に捕まって、たらふく食べて逃げ帰ると言うことが続き夏目が多軌に食べさせすぎだから暫く餌を与えないでくれと言われるまで続いた。
「太りすぎは体に悪いだろ」
「そうね…。じゃあダイエットの手伝いを」終いまで聞かずに逃げ出した。

「多軌は苦手だ…」と言うと
「違うよ。先生はあんなに好かれたこと無いからあわてるんだよ」そうかもしれない。
作品名:猫日和 作家名:ぼの