猫日和
「女子供は苦手だ…」弱くて柔らかくて必死に掴もうとする。抵抗するにも手加減がわからない。夏目が相手だと遠慮なんか要らないのに。
「でも嫌いじゃないだろ?」
認めるのが癪に障って寝た振りをした。
中秋
「貴志くーん。ちょっと手伝って」と下から声がする。
「はーい」あわてて降りる。
「塔子さん。なんですか?」
「貴志くん。床の間にこれ飾り付けてくれない?」とススキを渡される。
「今お団子作ってるの。あとで手伝ってくれる?」
「はい」
床の間に敷物が敷いてあり花瓶が置いてある。花の飾りつけなんてした事が無いのにススキの飾りつけ…。
悩みながらバサッと入れて広げたり斜めに入れなおしたり…。
こんなので良いのかなと思いながら返す返す見てると
「あら。すてきに出来たわね。今度はこっちを手伝ってくれる?」
「はい」
ほっとしながら台所に向かう。
「前に貴志くんが雪うさぎ作っていたでしょう?あれみて月見団子をうさぎで作ってみようと思ったの」
「うさぎですか?」
「これゆでて冷ましてあるからうさぎに目を入れてくれる?」と竹串と小皿に赤いものを渡される。
隣で塔子さんは団子に切れ目を入れて耳にしてる。こっちが顔か。正面から見据えて上の方に点を入れる。
「こんなんですか?」
「もう少し大きくした方が可愛いかしら」と言われて目を大きめにして皿に置く。
「可愛いー。でも可愛すぎて食べるの可哀想になっちゃうわね」とニコニコしながら皿に置いていく。
「今日のデザート。後でみんなで食べましょう」
でも食べるんですね…。
「はい…」作り終わってラップをかけてススキの側に置く。
食べる前に写真撮りましょう。と喜んでる。
「今日は月が見えるかしらね」
「見えると良いですね」
滋さんが帰ってきて晩御飯。
「猫さんまだ帰ってこないわね」
「ああ、お腹が空いたら帰ってきますよ」
「ならいいけど」何処まで行って何をしているやら。
曇っているので月の写真を掲げて二人はお酒を少し飲んでみんなでお団子を頂いた。
「来年は月餅を作りましょうか。練習しておくわね」
「はい」
ニャンコ先生は夜中に酔っ払って帰って来た。
「ただいまー」
「酒臭い…」
「山でお月見」単なる飲み会だな。
「曇っていたぞ。塔子さんがお団子先生の分も作ってくれたのに」
「お団子。食うぞ」下に行こうとする。
抱きとめて
「こら!もう寝ているから明日にしろ」
「だんごー」ジタバタ手足を動かす。
そのうち静になったと思ったら寝ているので電気を消して布団にはいる。食意地が張っているんだから…。
来年は一緒に食べよう。猫にお団子食べさせていいのかはともかく…。
水泉動
「明けましておめでとうございます」挨拶の後
「貴志くん。はい」と渡される。
「はい?」
「お年玉よ。お年玉。最近は幾らぐらい出したら良いのかわからなかったんだけど」とにこやかに言われる。
「あ、ありがとうございます」
「いやあねぁ。そんな畏まらないで」と背中をたたかれる。
新年の挨拶もお年玉もあんまり関係なかったので頭も体も付いていかない。
ボーとしながら部屋に戻ると
「正月早々何ボケた顔している」
「…ボケた顔」
「ま・何時ものことだが今日は一段と酷いぞ」
「お年玉もらったからかな」
「おとしだまってなんだ?食えるのか?」
「食べられないよ。お金だから」
「何?もらったのか?ずるいぞ」
「いや…ずるいと言われても。ニャンコ先生にお金は必要ないだろう?」
「ばか者!師匠には敬意を表して付け届けをするものだ」
「師匠じゃなくて用心棒だろ」
「じゃお礼」
「それは話ついているだろ」
「何でもいいからわたしにもよこせ」
「要するに何か奢れと言いたいんだな」
「当たり前だ。饅頭勝って来い!あ・ケーキでも良いぞ。こないだ多軌にもらったのは美味かった」
ニャンコ先生はクリスマスに多軌から家庭科で作ったというケーキをもらっていた。
「夏目君。今日実習でカップケーキ作ったの。名前入れたから猫ちゃんに食べさせて」
「あー。ありがとう。ニャンコ先生喜ぶよ」
「…夏目。本当にぶさ猫にやるのか?」
「え?ニャンコ先生にもらったから」
「名前書いてあるのよ。ほら」開けると
『ねこちゃん』と書いてある。
あの時の周りの沈黙が痛かったな…。
「先生。ここは田舎だから三ヶ日は店が開かないぞ」
「なんだとー」
飛びかかって来たのでつい殴ってしまった。
「あ…」
「夏目のばかー。意地悪ー。乱暴ものー」
と窓から出て行ってしまう。
新年早々先が思いやられる。
皆で初詣をして年賀状を見てTVを見る。
そして夜に酒臭くなって帰ってきた。
「た・だいまー」
「お帰り」座布団で丸くなってる先生に
「今年もよろしく」と頭を撫でた。
「むにゃ…饅頭買ってこい」
「はいはい」
「夏目のもやし…」
おーい。
「土筆… まな板… えのき… 」
何時までもぶつぶつ言うので拳骨一発。静かになったので休んだ。
「うーん。頭が痛いぞ。飲みすぎか?」たんこぶかなと思いながら聞き流す。
「夏目。饅頭を買いに行くぞ」
「先生。だから店開いてないって」
「なにー」
「4日からだよ」
「夏目のばかー」
え?おれの所為か?また窓から飛び出していった。
単に飲みに行きたいだけなのか?用心棒失格。
だけど帰ってきてくれる…。
窓から外を見ると良い天気。
「さて宿題でも片付けるか」
何気なく過ぎていく日々の中にいつの間にかいろいろなものが増えていく。
少し前までは考えもつかなかった。騒がしくも大切な日々。
そしてまた夜中に酔っ払って帰ってくる。妖怪はアル中にならないのかな。
款冬華
家に帰ると雪が降り出してきた。
「ただいま」
「おかえりなさい。おやつあるわよ」
「着替えてきます」と二階に行こうとしたら
「あ。貴志くんねこさん見なかった?」
「え?」
「お昼も居なかったわ」
ひとりでおやつを食べたら煩いかな?
「じゃちょっと捜してきます」
玄関に鞄を置いて出ようとすると
「待って。これを…」マフラーを巻いてもらう。
「…行ってきます」
外に出るとさっきより雪が降ってきた。早く見つけないと暗くなる。
「ニャンコ先生。おやつだぞ。出てこないと食べちゃうぞ」
塀の上にも居ないし犬をからかっても居ない…。
近所を探しながら見当たらないので原っぱまで行く。
「ニャンコ先生ー。おーい」
暗くなってきてまわりが灰色になっていく。
「居ないなぁ。帰るか」
妖怪だから死にはしないだろう。
でも塔子さんが心配するか…。
仕方ないもう少し探すか…。
と歩き出すと滑って転んでしまう。
「いってぇ…」背中打った…。そのまま上を見ると本格的に雪模様。どんどん降ってくる。
雪が降るのを見ているとだんだん地上から上に上がって行っているようにも見える。錯覚って凄いな。
ついぼーっと見てると上から何か影が落ちてくる。あわてて起き上がるとすぐ側に落ちてきた…。あぶねー。
「ニャンコ先生!」何処から飛んできた。
「ちっ!」
「今舌打ちしただろう」
「気のせいだ。お前こそなぜこんなん所で転がっていたんだ」
「転んだだけだよ」