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【APH/東西兄弟】唯一人のための。

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厳粛であるべき会議場に響く喧騒はひどく神経へと触り、ルートヴィッヒはただひたすら込み上げる怒りに震えていた。
 会議の真っ最中だというのに、どうして連中は人の話に耳も傾けず、ただ無意味に騒ぎ立てるというのか。下らない談笑に興じる者、つまらない諍いを繰り広げる者。無関心を決め込み、持ち込んだ仕事を黙々と続ける者。ホスト国でもないルートヴィッヒが、見るに見かねて視界の真似事をしながら話をまとめようとしたが、誰一人として聞く耳を持たないまま、ただ時間だけが無為に流れていく。彼らの騒がしさは今に始まった事ではないのかもしれないが——いいかげん、真面目に仕事をする気のない連中の態度は腹に据えかね、思わず席を立ち上がっていた。

「お前ら、静かにしろ……! 今は会議中だぞ!」

 怒気を露に一喝したところで、彼らが聞き入れるはずなどないのだということは、十分すぎるほどにわかりきっていた。けれどこの惨状を前にして、黙っていられるような性格ではない。込み上げる怒りは胃を焼き、ため息混じりに拳を固めて机を叩こうとした、その瞬間。
「まあ、そんなに怒んなよ」
 傍らから上がった声はいやに落ち着き払っており、ルートヴィッヒは緩く首を振るった。そちらに向けた瞳に映し出されるのは、見慣れた顔——かつて戦場を駆け回ったギルベルトことルートヴィッヒの兄は、現在ではかつての気迫は影を潜め、すっかりと気侭な隠居生活を楽しんでいる。そのギルベルトが、今日は何故か家のリビングや兄の部屋でだらしなく寝そべっている際に着用している簡単な服装ではなく、スーツをしっかり着込んでいて、それだけでもひどく違和感を与える光景だった。
「兄さん……」
 痛むこめかみを指先で押さえながら、ルートヴィッヒは低く呻く。一体どうした風の吹き回しか、普段は興味を示さない会議への参加を宣言されたのは、今朝のことだ。何の意図があっての行動なのかは、まったく理解が出来ない。いや、深い意味などないように振る舞う兄の真意が見て取れる事など、ほとんどない。今回の会議はEU加盟国のみのもので、兄の苦手なイヴァンが出席する事はあり得ないということが、気紛れな行動を実行へと移す一つの原因となった事は明らかだったが、普段からイヴァンのいない会議ならば出席しているというわけではない。むしろ、兄が会議へと出席するのは一体何十年ぶりなのか、ルートヴィッヒにもわからないほどだ。
 どうして、会議へと出席する気になったのか。その理由を兄に理由を尋ねてみようと、『何となく』という答えしか返ってこない。それが誤摩化しではないのだろうとは、ルートヴィッヒも心得ている。兄というのは、そういう人だ。それは諦めや怒りなどという負の感情としてではなく、単純にそういうものだと認識している。普段からギルベルトは気まぐれな態度でルートヴィッヒを振り回していたが、彼は決して愚かではないのだという事は、弟であるルートヴィッヒが一番良く知り得る事だ。兄の才覚や愛情深さは、ルートヴィッヒ自身が最も身を持って知らしめられていた。だからこそ、彼を軽んじるなどあり得ない。多少迷惑だと思う事こそあれども、本気で疎んだ経験はなかった。兄は、どれほどだらしない態度を取ろうとも、今でも心底弟を大切にしている。その兄を、どうして邪険に出来るというのか。
「まったく、そんなにきつくシワを寄せるなよ。かっこいい俺様に似てヴェストも男前だってのに、台無しじゃねえか」
 けらけらと軽い笑みを浮かべるギルベルトの指先が、ふいにルートヴィッヒの眉間をなぞる。まとまらない会議を取り仕切ろうとしたところに水を差される形になったが、けれど不思議と怒りの感情は込み上げて来ない。兄の事になると、途端に沸点が非常に高くなってしまう事は、ルートヴィッヒも自覚している。他人にされれば間違いなく怒りを覚える事であろうと、兄からされたならば許せてしまうのは、幼い頃からそういうものとして育って来たせいもあるのだろう。
「兄貴、会議中にちょっかいを出さないでくれ。それに私語は慎むべきだ」
 顰めた声で短く小言を紡いだ瞬間、肩を抱かれた。会議場は相変わらず騒がしいが、一瞬フランシスと目が合う。兄との良好な関係をことあるごとにからかうフランシスが言いたい事など、何となく想像がつく——おそらくまたブラコンだのべたべたするななどと、軽口を叩きたいのだろう。ギルベルトもルートヴィッヒも、ごく当たり前の兄弟として接しているだけだというのに、何故こうも誤解されるのか。
 未だに彼らは良好な兄弟として当然の事が理解出来ないらしい。兄弟間のやり取りにまで不埒な妄想をされるのはいいかげん迷惑だと、ルートヴィッヒは不機嫌そうに兄の悪友を見遣ったが、そんな弟の態度など関係ないとでも言わんばかりにギルベルトは笑みを崩さない。
「まったくヴェストは固いんだよ。回りはうるせえし、気にすんな。少しは気を抜いて、無駄話でもすりゃいいじゃねーか」
 そのまま兄の手は髪に触れ、軽く撫でられる。髪が乱れる程かき回されれば抗議をするところだが、ほとんど触れただけの動きはまったく実害がないため、窘める口実を失うルートヴィッヒは抗う事さえも出来ず——それどころか、会議場でさえもいいかげんな言動を繰り返す兄に、覚えるのはけれど苛立ちよりも安堵に近い。普段ならばとっくに怒声とともに会議を取り仕切っていたであろう状態であっても、笑いながら触れて来る兄に毒気を抜かれてしまうかのようで、怒りは見る間に萎えてしまう。まるで自宅のリビングでくつろいでいるような感覚に、良くも悪くも肩の力が抜けていく。調子を狂わされ、怒りを向ける事すら出来ぬまま、ルートヴィッヒは小さくつぶやいた。
「だが、会議中だ……」
「構わねえよ。どうせ誰も聞いてねえ。怒鳴ったって無駄だ、放っておけ。何なら会議サボって飲みにでも行こうぜ!」
 とんでもない提案をはじめた兄に、ルートヴィッヒは慌てて視線を険しくする。睨みつけたその先で、苦笑する兄が冗談だと口にしたが、兄の言動は常日頃からどこまでが冗談でどこまでが本気なのか、まったく見当がつかない。少しでも乗り気であるかのような態度を見せたら、本当に飲み屋まで引きずられかねないと——幾度も似たような目に合っているルートヴィッヒは、深々と溜息をついた。
「ったく、怒んなよ。お兄様は暇してるんだ。付き合ってくれたっていいじゃねーか」
「……まさか会議にも暇つぶしのために参加したのか?」
 口角をつり上げるギルベルトに——ルートヴィッヒは質問した事を後悔した。暇を持て余しているというただそれだけの理由で、強引に会議へと入り込んだ挙げ句、隣から私語を飛ばして邪魔をするというのか。いくら兄には甘いルートヴィッヒであろうとも、さすがに眉をしかめて不機嫌さを露にするが、懲りないギルベルトはいたく上機嫌だった。確かに他国の連中もまるで会議へ参加しようとする気配もないが、だからと言ってここで自分まで兄に同調し仕事を放棄するのは良くない。兄を一足先に帰らせ、一度彼らを怒鳴りつけて会議に集中させるべきかと思案し——けれどルートヴィッヒは、横目で兄を見遣った。