The first quarrel
その日の臨也さんは機嫌が悪かった。あの人はいつも笑っているけれど、今日はその笑みさえ顔から消え去っていて。だから僕は、マンションに着いてから無言で(お邪魔しますぐらいは言ったけど)ソファに座り、時折パソコンを見ては電話する臨也さんを見たり宿題をしたりしていた。
そのとき、ふと影が落ちてきて。見上げると臨也さんが疲れた顔で立っていた。
「ごめん、帝人くん。気づかなかった……」
申し訳なさそうにそういう臨也さんに僕は微笑んで、
「いえ、大丈夫です。忙しいのわかりましたから」
そう言えば臨也さんは顔を歪めて、黙って僕を抱きしめた。大丈夫とか言いつつ、こうやって触れ合うと嬉しいと思ってしまう自分がいる。恐る恐る手を背中に回そうとした時。
「……なんでだよっ」
乱暴な声にぴたりと動きを止める。
「ねえ、なんなの?」
冷たい声。この声は幾度か聞いたことある。けれど、僕に浴びせられたのは初めてだ。
「何で君は俺に甘えないの?やっぱり俺とは仕方なく付き合った?俺が君に愛を囁く姿は滑稽だった?それを見て笑ってたの?」
どんっ、と肩を突き飛ばされてソファに勢いよく沈んだ。
「ハハッ……最初はそれでもいいって思ってたけど、無理かな。君から言われる‘好き’が辛いよ」
無理矢理腕を引っ張られ立ち上がる。そのまま玄関まで連れて行かれ、鞄を乱暴に渡された。そこでやっと僕は口を開く。
「あの、臨也さ……」
バンッ
臨也さんが片手で壁を勢いよく叩いた。もう片方の手で目を隠すと、
「帰れよ」
低く冷たい声で吐き捨てた。
「もう来なくていいよ」
ドアの外に押されて、その瞬間閉められた。
立ち尽くす。
仕方ない。多分どれだけインターフォンを押しても、ドアを叩いても出てくれないだろう。春になったとはいえまだ寒い。夜になればさらに冷え込むだろうし、外で待つにはキツイ時期だ。このまま帰りたくなんてないけれど、帰るしかないだろう。
そう思ってマンションから出て、新宿から池袋に帰り――そこで、妙な人に捕まった。
「なぁ兄ちゃん」
「折原臨也と知り合いだよな?」
二人組の背が高く体格がいい男。こういう風に絡まれることは珍しくない。……まあ、そんな時は臨也さんが助けてくれたんだけど。今覚えばなんであんなすぐに駆け付けられたんだろう。不思議だ。
「なぁ」
今日は、臨也さんからの助けは期待出来そうにない。なら、逃げるしか……。
後ろに振り返り思い切り走ろうとしたら誰かにぶつかり、そのまま何かを口元に当てられた。
そのとき、ふと影が落ちてきて。見上げると臨也さんが疲れた顔で立っていた。
「ごめん、帝人くん。気づかなかった……」
申し訳なさそうにそういう臨也さんに僕は微笑んで、
「いえ、大丈夫です。忙しいのわかりましたから」
そう言えば臨也さんは顔を歪めて、黙って僕を抱きしめた。大丈夫とか言いつつ、こうやって触れ合うと嬉しいと思ってしまう自分がいる。恐る恐る手を背中に回そうとした時。
「……なんでだよっ」
乱暴な声にぴたりと動きを止める。
「ねえ、なんなの?」
冷たい声。この声は幾度か聞いたことある。けれど、僕に浴びせられたのは初めてだ。
「何で君は俺に甘えないの?やっぱり俺とは仕方なく付き合った?俺が君に愛を囁く姿は滑稽だった?それを見て笑ってたの?」
どんっ、と肩を突き飛ばされてソファに勢いよく沈んだ。
「ハハッ……最初はそれでもいいって思ってたけど、無理かな。君から言われる‘好き’が辛いよ」
無理矢理腕を引っ張られ立ち上がる。そのまま玄関まで連れて行かれ、鞄を乱暴に渡された。そこでやっと僕は口を開く。
「あの、臨也さ……」
バンッ
臨也さんが片手で壁を勢いよく叩いた。もう片方の手で目を隠すと、
「帰れよ」
低く冷たい声で吐き捨てた。
「もう来なくていいよ」
ドアの外に押されて、その瞬間閉められた。
立ち尽くす。
仕方ない。多分どれだけインターフォンを押しても、ドアを叩いても出てくれないだろう。春になったとはいえまだ寒い。夜になればさらに冷え込むだろうし、外で待つにはキツイ時期だ。このまま帰りたくなんてないけれど、帰るしかないだろう。
そう思ってマンションから出て、新宿から池袋に帰り――そこで、妙な人に捕まった。
「なぁ兄ちゃん」
「折原臨也と知り合いだよな?」
二人組の背が高く体格がいい男。こういう風に絡まれることは珍しくない。……まあ、そんな時は臨也さんが助けてくれたんだけど。今覚えばなんであんなすぐに駆け付けられたんだろう。不思議だ。
「なぁ」
今日は、臨也さんからの助けは期待出来そうにない。なら、逃げるしか……。
後ろに振り返り思い切り走ろうとしたら誰かにぶつかり、そのまま何かを口元に当てられた。
作品名:The first quarrel 作家名:普(あまね)