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すきのりゆう

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銭を好きな理由は、幾らでも思い付く。
 きり丸は、図書室で書物を整理するふりをしながら、頭の中で指を折った。何でも出来るから。裏切らないから。苦労しなくて済むから。あればあっただけ困らないから・・・等々。挙げればキリが無い。だけれども―、きり丸はその事を考えて表情を曇らせた。団蔵を好きな理由は、一つも思い付かない。どれだけ頑張ってみても駄目で、好きな箇所を探せば探そうとする程、その探し当てた部分が霞み、折角思い付いたそのどれもがまったく当て外れのように思われた。優しいから?自分が苦しい時、いつも傍に居てくれるから?あの笑顔が好きだから?違う、そうではなくて―そうではなくて、何だろう?きり丸は、これで何度目になるのであろう問答をまた心中で繰り返し、溜息を吐いた。

****

 加藤団蔵は、図書室で書物を選ぶふりをしながら、棚の前で先程から微動だにしない彼の横顔を盗み見ていた。こちらの姿には気付かないようで、彼らしからぬ不景気な表情を浮かべている。団蔵はちらりと背後の図書委員長を見た。貸し出し管理の机に座り、中在家長次先輩そっくりの強面を浮かべている。委員長になると、そういうところまで似てしまうのだろうかと、団蔵は吹き出しそうになるのを堪えながら能勢久作を眺めやる。中在家先輩が卒業してから四年、久作が図書委員長になってからと言うもの、仕事の量が増えたときり丸がよくこぼしていた。殊きり丸に関しては(これは一年の頃から変わらないのだけれども)、久作は厳しいのだ。サボっているのがバレないだろうか。心配になって、団蔵は再度きり丸を振り返った。書物を手にしているものの、その手は空でぴたりと停止している。幾ら何でも不自然だろう。
 誰の事を考えているのだろうか?団蔵は、きれ長の瞳と、肩にかかった細い髪の束を眺めながら、ぎゅっと拳を握った。きり丸が誰の事を考えているかなんて、そんなのは明白だ。団蔵は今朝、きり丸が土井先生の部屋へと呼ばれていたのを知っている。別に何て事はない、きり丸がこの前忘れた宿題の件だったようだが、きり丸の調子がおかしくなったのはそれからだった。団蔵は分かっているつもりだった。土井半助がきり丸の事を、もう何年も前から自分の生徒以上の視線で見つめている事、その想いをひた隠しにしている事、そしてその想いは、彼の意思によって恐らく一生遂げられる事はないであろう事。―そしてきり丸は、その全てを承知した上で今まで通りの関係を土井先生と続けている事。
「おい!きり丸!」
 とうとう久作が堪忍袋の緒を切らした。
「な、なんだよ・・・?」
 驚いたようにきり丸は久作を見る。と、その瞬間に団蔵の姿にも気が付いた。
「あれ?お前居たのか」
 団蔵は、ふいと顔を背けると、そのままきり丸を無視して図書室を出て行った。何やら中で二人が怒鳴りあう声がしたが(何かを投げつける物騒な音もした)、一拍遅れてぱたぱたとこちらを追いかけてくる足音がする。
「おい!団蔵!」
 立ち止まると、きり丸が怪訝そうな顔をして団蔵の腕を掴んだ。
「待てよ、どうしたんだよ?」
「なにが?」
 惚けると、きり丸は掴んだ腕に力を込める。
「何がって、お前、今俺の事見てさっさと出てっちまったじゃないか」
「なんでも無いよ」
 やんわりと、団蔵はきり丸の手を払った。
「お前・・・何か変だぞ?」
 そう言われ、団蔵はくるりときり丸の方に向き直る。あれから四年が経ち、会計委員会の鍛錬で磨かれた団蔵の身体は、きり丸より一回りは大きくなり、背もぐんと伸びた。きり丸の頭は、今丁度、団蔵の鼻辺りにある。
「お前の方が変じゃないか?」
 団蔵は言ってしまってから、しまったと思ったけれど、もう遅い。なるようになれと、思いのままに口を滑らせた。
「今朝からずっとそうだ。お前、土井先生と何かあったんじゃないのか?」
 きり丸は目を大きく見開き、その後、年を経る毎に彼が見せるようになった、何かを悟り切ったような冷淡な顔を覗かせた。
「お前さ・・・、なに勘違いしてんの」
「は?俺は別に・・・」
「あーあ。そういう事か」
 きり丸はそう言うと、団蔵を追い越して自室へと足を進めようとする。
「おい・・・」
「俺さ」
 きり丸が、冷たく言い放った。
「もっとお前に信頼されてるかと思ってた」
 きり丸の、その突き放したような表情と台詞に団蔵は凍りついた。俺は、何を間違えたんだ・・・?辛辣な台詞に含まれた意味を咄嗟に思案してしまったその隙を付いて、きり丸は団蔵の前から姿を消してしまった。

****

 きり丸が団蔵と付き合い始めたのは、今から半年前の事だ。食堂で(なぜ食堂でと言うのはまた別の話)団蔵から告白されて、ああそういうものかと思って、首を縦に振ったのが始まりだった。付き合ったからと言って、別段今までと変わった事がある訳では無かった。前より少し団蔵といる時間が増えたくらいと、団蔵のきり丸に対する(少々オーバーではないかと思われる)独占欲を直に感じるようになったくらいだ。そしてその独占欲の根元となっているのが、団蔵の土井先生ときり丸の関係に対する疑いだという事は、想像するに容易かった。確かに、長期休みの度に恋人が余所の男と一つ屋根の下で暮らしていれば、それは心配するなという方が無理な話かも知れない。がしかし、土井先生とは一年の頃から一緒に暮らしている訳だし、まぁ何も無いかと言われればそれは何も無い訳では無い関係なのだけれど、身体に関しては清廉潔白だし、これまでもこれからも、きり丸は土井先生とどうこうなろうという気持ちは無い。そんなものは、とっくのとうに捨て去ってしまった。団蔵は、過去の自分を知ってしまっているから不安になるのかも知れない。けれど、きり丸は―それは都合の良い事かも知れないけれど―、過去の自分を忘れて今の自分だけを見て欲しかった。
 今朝方、土井先生に言われた言葉を思い出す。
“噂で、団蔵と付き合っているという話を聞いたよ。きり丸は、団蔵のどこを好きになったんだい?”
 それは何の他意もない、宿題のお小言を貰った後に、ついでのように付け加えられた問いだったけれど、きり丸はこの言葉を聞いてふと考え込んでしまったのだ。
(俺は・・・どうして団蔵を好きなんだっけ?)
 それに加えて、先程の団蔵とのやり取りである。この後アルバイトの予定が二つも詰まっているのに、何だか嫌になってしまう。きり丸は溜息を吐いた。恋なんて面倒臭い。銭が恋人だったら、分かり易くて良いのにとそんな事を考えてしまう。
「きりちゃん?」
 障子が開いて、同室の猪名寺乱太郎が顔を覗かせた。不思議そうな顔で、きり丸の手元を見つめている。
「どしたの、それ?」
 きり丸は、はっとして遠のいていた意識を自分の手元に戻した。アルバイトで預かっている着物を繕っていたはずが、無意識の作業のせいで、縫い目が預かる前よりも酷い事になってしまっている。きり丸は苦笑した。
「あーあ。全部解かなきゃなぁ」
 鋏を手にするきり丸に、乱太郎は後ろ手で障子を閉め、きり丸の隣に座った。
「乱太郎、保健委員会の仕事は?」
「今一段落してきたところ」
 乱太郎は、横目できり丸を見た。
「しんべえは?」
作品名:すきのりゆう 作家名:ずまい