二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ひまわり

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 

1.アルフレッドと菊



「いつまで私のところにいらっしゃるんです?」
 菊が、呆れたように腰に手を当てた。
 目の前では、アルフレッドが、うつ伏せに寝転んだ腕に座布団を抱えこんで、拗ねるティーンエイジャーらしく頬を膨らませている。
 おまえはリスかと言いたくなる見事な膨らませっぷりだ。詰まっているのは美味しいどんぐりでもナッツでもなく、彼の不満と、彼言うところの、わからずやの兄に対する怒りだったけど。
「君まで、アーサーのところに帰れっていうのかい!」
「あなたにしては珍しく空気を読んだじゃありませんか、アル。そのとおりですよ」
「いやだぞ。大体あいつのところに行ったら、毎食スコーンを食べさせられるんだぞ」
「幾らあの人でも、そこまでワンパターンじゃないでしょう」
 アルフレッドが珍しく反論もせずうつろなまなざしを寄越したので、菊は沈黙した。 まさかと思いますけど、経験談とか。
 食に繊細な菊の常識では信じがたいことだが、相手はなんといっても、キュウリを40分煮続けて、煮物と言い張るアーサーである。
「ねえ、いいじゃないか。もうしばらく置いてくれよ菊! 
 なんならバイトと思って、何かに使ってくれてもいいから。犬の散歩とか、ベビーシッターとか、俺得意なんだぞ」
「はあそうですか、ベビーシッターをあなたが……。いえ、前向きに善処させて頂きますけど……」
 菊はさりげなくイイエの返事を突きつけながら、おっとりと頬に手を当てた。本田家に赤子はいないし、いたとしても彼に預けた途端、可愛がられすぎて疲労死寸前の小動物みたいなことになりそうだ。
 それに犬の散歩に関しては、愛犬ぽちくんはリードがなくても飼い主を見失わないような良い子なので、バイトを雇わずとも世話の手は足りている。
「まあ、一度アルから連絡くらい、入れてさしあげてもいいのでは? きっと心配してらっしゃるでしょうし」
「嫌だ! 適当に友達のところに泊まってるって言ってあるし、問題ないだろ」
「問題ないなら、もうおうちに帰られても平気でしょ。明日の飛行機の便、空いてますよ」
「勘弁してくれよ!」
 アルフレッドは一声叫ぶと、ばふっと音がしそうな勢いで座布団に突っ伏した。
「頼むよ。あとちょっとだけ、アーサーの元を離れてられるだけでいいんだってば。あとちょっとしたら、ちゃんと帰るからさ!」
「本当でしょうね?」
 菊は嘆息した。青年のお行儀の悪さを窘めて、きちんと座るように促す。
「まあ、ここにいること自体はお知らせしてありますし、アーサーさんにも一応ご了承頂いていることではありますが……。
 夏休みももうすぐ終わりますし、学校が始まる前に、きちんとおうちに戻るんですよ。わかってますね?」
「勿論さ!」
 ほんとかよ。と菊は思ったが、目の前の青年は眼鏡の奥の目をきらきらさせて、ヒーローに任せとけとでも言うような勢いで頷いた。ヒーローだったら、家出くらいこちらに頼らずひとりでこなして欲しい。
 そう思いはするものの、彼を追い出せはしない自分を菊は知っている。傍迷惑な相手ではあるのだが、その無邪気さにはどうもほだされてしまうのだ。押しに弱いとも言えるけど。
『……そうか、アルフレッドはそっちにいるのか。……おまえのところなら安心だよな。迷惑をかけるだろうが、よろしく頼む』
 耳の奥に、アルフレッドが転がり込んできたことを知らせた時の、アーサーの声が蘇る。
 皮肉屋で雨の似合う、その癖傷つきやすい少年のような人。
 あー嫌だ。本当は、この兄弟の問題になど関わりたくないのだ。菊はどちらとも友人だから、どちらに過剰に肩入れすることもしたくない。
 それに……。
 そこまで思いさして、菊はそれ以上考えるのをやめた。長く生きると、思考停止のやり方だけは上手くなる。まったく褒められたこっちゃない特技ではあるが。
 菊は頭を振って、夕食のことに考えを切り替えた。あの育ちざかりには、大盛りのカレーでも食べさせてやらねばなるまい。
 よし、今夜はお菊スペシャルですよ。
 菊は腕まくりをした。力こぶなどは出来なくなって久しいが、器用さだけは今でも自信がある。
作品名:ひまわり 作家名:リカ