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【新刊サンプル】極彩色の夢をみようよ【5/4 SCC】

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『牡牛座のアナタはいつもと違う行動がラッキー☆』
 家電量販店の店頭にディスプレイされているテレビからたまたま聞こえてきた今日の占いを信じたわけじゃないけれど、俺、折原臨也は、牡牛座のアナタというカテゴリに分類される。
 そんな俺が、名刺に持つ肩書のひとつであるFPとして新宿で行われた講演会に参加した後、まだ人が住める程度には荷物の残る新宿の旧事務所足を運んでみたのは、なんとなくそうしたいと思ったからである。別に占いを信じたわけじゃない。
 先月池袋の本拠地に戻した事務所にそのまま帰るだけじゃ、なんとなくつまらない気がしたから。それだけだ。
 そうしたら、玄関に、白い塊が落ちていた。
 より正確を期した表現をするなら、玄関ではなくそこはマンションのエントランスであり、白い塊は金髪の人間だった。
 真っ白なスーツの上下にピンクのシャツを合わせている。それだけでも人目を惹くには充分すぎるだろうに、ご丁寧に頭部には特徴的な大型のヘッドフォンを装着している。非常に派手である。
 それが長い手足を折り曲げ、体育座りの膝に顔をうずめて丸くなって、エントランスの床の隅で全体的に白っぽい塊みたいになっている。
 俺は足音と気配を消してそろりと塊に近付き、隙間からわずかに覗く顔の一部を確認してやっと、それが誰なのか知った。
 いつものようなバーテンダー服ではなかったから、よほど彼のことをよく知っている俺でも、ひとめでその男の正体について確信が持てなかったのである。
 平和島静雄。
 高校時代から現在に至るまで、ずっと俺の宿敵であり忌々しいコンプレックスで在り続ける、池袋最強の男。
 俺がその認識をしたのとほぼ同時に、俯いたままのそいつが俺の脚を掴んだ。しまった、と思った。この男の人間離れした膂力を振りほどくのは容易なことではない。
 このまま投げられるか、逆に引き寄せられて殴られるか、前者ならすぐ後ろだからうまいこと身体をひねって壁を蹴ろう、後者なら顔の正面をナイフで突いて隙をつくって逃げよう、しかしそもそも最近シズちゃんがここに来るよう仕向けたことなんて何かあったっけ?
 そこまで考え終わっても、池袋最強の喧嘩人形は俺の足を捕縛したまま次の動作をしない。いつものようにいーざーやーくーん、とか言ったりしない。壊れたのかな。つか掴まれてる足すっごい痛いし。せめて顔くらい上げろよ。
「おい」
 呼びかけると、金髪がちょっと揺れた。寝てるのかもしれないと思ったけど起きてるんじゃん。
「何のつもり? 俺、最近は別にシズちゃんにイタズラなんてしてないと思うんだけど」
 そう言うと、目の前の男が顔を上げた。
 俺はその顔を見て、驚いた。いつもかけているサングラスがそこになかったが、驚いたのはそこじゃない。
 十年に及ぶ殺し合いという非常に親密なお付き合いを経ながら、かつて俺が見たことのない表情をしていたからだ。
 眉間に力を込めて歯を軋ませて、ではなく、やや不安げに口元をゆるめて。
「……臨也?」
 ノミ蟲、ではなく名前を呼び、吐き捨てるようにではなく囁くような声で。
 思わず、なに、と返事をすると、向日葵が咲いたように笑った。そうして戸惑っている俺を引き寄せると、全身で抱きすくめた。
「やっと会えた……!」
 耳元で切なげな声がした。
 俺の頭のてっぺんからつま先まで、体表全てにくまなく鳥肌が立った。