月のない夜
万斉は黙って受け取り、頷いた。すると、女は漸くにこりと微笑んで、これで悔いは残りません。ありがとうと頭を下げ、背中を向けた。万斉は幾許か考えたが彼女の背を追い、辻を曲がった先で刀を抜いた。
女は驚きはしなかった。
それどころか、倒れる寸前にどこか薄っすらと微笑んでさえいた。
万斉は転がる女を見下ろしながら、目を閉じるとそれきり振り返らずに歩いた。
そしてその小さな守り袋は今、高杉の掌の中にある。ふと、気づいて固く縛ったその紐を解くと中からざらざらと米粒が出てきた。
あの日のように月のない夜だ。
蝋燭の明かりだけを灯し、高杉はじっと瞳を伏せて考え込んでいるようだった。その細い背中を、万斉はじっと見つめる。腕をとって、畳みに引き倒し組み伏せて啼かせたいと思った。しかしそうはせず、ただ黙って闇に溶け込むように座っていた。