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【チカダテ】無題

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From:もとちか
Sub :無題
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今から帰る。はらぺこー
---END---


見るともなくバラエティ番組が映し出されるテレビを眺めていた政宗の携帯にメールが届いた。
ローテーブルの上で微動しながら着信を知らせるそれを取り上げて、政宗は左だけの眸を細めた。


From:政宗
Sub :Re:無題
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パスタでいいなら作ってやる。
その代わり、食後のデザート買ってこい。
---END---


政宗はそう返信して、折畳み式の携帯をパクンと閉じる。
どうせ答えは分かっている。Yes以外に考えられない。
と、数分と置かず再び携帯がメール受信を知らせてきた。


From:もとちか
Sub :Re2:無題
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駅前のケーキ屋で何か買ってく!
---END---


ほらやっぱり、と政宗は短い遣り取りに微笑を溢した。
どちらが食事の当番と決まっている訳ではなく、先に帰宅していた方が作るという暗黙のルールが何時の間にか出来上がっていた。否、厳密に言えば食事を作るかそれ以外の方法をとるかを決めるルールと言った方が正しいかもしれない。互いに仕事を持っている身としては先に帰宅しているからと言って、家事をこなすだけの余力がない場合もある。外食を提案するのもアリだ。
今日は政宗が先に帰宅していて、尚且つ帰りに買い物にも寄ってきた。作る気満々である。これで元親が外食して帰るというなら途端にインスタント食品か珈琲だけで済ませてしまうかもしれないが、腹を減らして帰宅するというのだから用意しない手はない。
政宗はテレビを消し携帯をジーンズの後ろポケットへと捻じ込んで、ダイニングキッチンへと移動した。
メールのあった時間から大まかに帰宅時間を予測すると、よし、と小さく声にして愛用のカフェエプロンを腰に巻き付けた。
仕上げは元親が帰宅してから取りかかる方がいいだろう。その為には下準備が必要だ。
政宗は冷蔵庫と向き合うと、必要な食材を手早く取り出した。
まな板を出してステンレスの大きなボウルに冷水を溜める。ぱりぱりと、鮮やかな若緑の春キャベツを剥いて、それを適当な大きさに千切ってはボウルの水に浸した。軽くゆすいでザルにあげ、次はしめじのパックを開ける。小房に分けて石づきを斬り落とし、春キャベツのこんもりと重なる同じザルに入れた。それから今度はジャガイモを手にすると、先程キャベツをゆすいだ水に漬け、ごしごしと表面を洗う。汚れた水を捨ててもう一度ボウルに水を注ぎ、そこに皮ごとサイコロに切ったジャガイモをぽちゃんぽちゃんと沈めていく。
そこまでして、政宗はちらりと時計を見遣った。
コンロ下からフライパンと、パスタポットを取り出す。フライパンはコンロに待機させ、パスタポットに少しの水を注ぎ塩を小さじで掬って入れた。それをコンロにかけて、政宗はブロッコリーを小房に分け始める。茎も皮を剥いて使う。湯が沸いたところに茎から先に入れ、少し間を置いて残り全部を入れる。ブロッコリーがお湯の中で踊っている間に、政宗は小ぶりなボウルを取り出すと、冷蔵庫から出した麺つゆを適当に流しいれた。そこに炒り胡麻を一掴み入れ、やや思案してもう少しだけ足す。ボウルを持った手をリズミカルに揺すりながら、政宗はフードストックから塩昆布を取り出した。
「おっと、茹で過ぎちゃ美味くねぇ」
持っていたものを慌てて調理台に置き、菜箸でブロッコリーをひょいとひとつ摘み上げ、硬さをみる。
「Marvelous!さっすが俺、いい茹で加減」
自画自賛して、政宗はメッシュクーパーでブロッコリーを手早く掬い上げた。軽く振って水滴を払い、先程のボウルにメッシュクーパーを引っ掛けるようにして荒熱を取る。
コンロの火を消して、パスタポットに今度はたっぷりの水と塩を足した。
そのタイミングを計ったように、ジーンズに突っ込んでいた携帯が着信を知らせる軽やかな音を奏で始めた。
濡れた手をタオルでざっと拭いて、政宗は携帯を取る。
「Hello?」
『おう、俺。元親』
着信の時点でディスプレイから相手は分かっていたが、律儀に名乗ってくる相手に政宗は「お疲れさん」と返した。
『駅前まで来たけど、何か買い足すもんとか、ないか?』
「Hum…特にないな。あ、ビールしかないから何か他のが良かったら好きなもん買ってこい」
『パスタっつったよな・・・じゃあハウスワインでも買ってくか?どっちのがいいんだ?』
どちらもアルコールは嗜む方だ。こと元親は水を飲むように簡単に酒を煽る。
「好きな方でいいぜ。どうせ大半はアンタが飲むんだ」
『んー…でも、強いて言えば、どっち?』
「So…白、かな」
『オッケー、白な。じゃあケーキとワイン買ってから帰るわ。あれ、なんか俺お洒落じゃね?』
「ぷっ、響きだけ聞きゃあな」
笑いながら言ってやると、
『うっせ、一言余計だ!じゃあな、美味いメシ頼むぜ、政宗』
携帯の向うから抗議が寄越された。本気ではないと知れるが、しかし不貞腐れたように言って元親が通話を終えようとした。が、
「Hey,wait!wait!」
政宗はそれを慌てて引き留めた。
『…ンだよ?』
「Ah、塩系とクリーム系なら、どっちがいい?」
曖昧に選択肢だけを投げ掛けると、しばし沈黙が訪れた。そして、
『ガッツリ系』
選択肢以外の答えが返された。それに政宗は破顔する。
「Okay、ガッツリ系な。じゃあ気ぃ付けて帰ってこいよ」
『おうよ』
じゃあな、と短く言い置いて、今度こそ通話が切られた。政宗は頬が綻んでいるのを自覚しつつ、携帯を再びジーンズのポケットに突っ込んだ。
では仕上げといくか、と政宗は気合を入れるように腰に手をあてて大きく一呼吸した。


「ただいま~」
玄関先からの声に、
「Hello,dear!」
政宗は顔だけむけて返す。直ぐにリビングに入ってきた元親は、ケーキハウスの白い箱とリカーショップの縦長のビニール袋を提げたまま、コンロ前の政宗の背にぴったりとくっつくように立った。
「おぉ、美味そう!」
「You bet!(当然)俺が作ったんだぜ?不味い筈がねぇ」
政宗が得意気に言って、肩越しに手元を覗きこむ元親を振り仰いだ。と、口の端に触れるだけのキスが落とされる。
「着替えて手ぇ洗ってきな。直ぐ出来る」
「俺の分、大盛りな」
「くく…I know.」
勿論それを見越してパスタポットには人数分以上のパスタが湯の中を泳いでいる。
元親はフライパンに向き直った政宗の耳元にもう一度唇を落とし、その場を離れた。
途端に背中が寂しくなった政宗だったが、同じ空間にある元親の存在に、気持ちは温かくぽかぽかとしていた。

「I apologize for the wait(お待たせ)」
既にテーブルについていた元親の前に、湯気を立てるパスタが供された。
「クリームソース?」
「まぁ食ってみな」
元親に渡したものより量の少ない皿を自身の前に置き、政宗も席につく。と、深い蒼の切り子のグラスにワインが注がれた。ほんのりと蜜色に染まる液体がグラスに満たされる。
「フルーティで飲み易いってよ」
作品名:【チカダテ】無題 作家名:久我直樹