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改誓

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闇夜に紛れて走る。音はいっさい立てない。誰にも悟られず、誰にも気付かせずに帰還する。するべき仕事はした。そう、後は主のもとに行くだけだ。
「猿飛佐助、ただいまもどりました」
この言葉が早く言いたい。そう思うようになったのはいつのことだろうか。主が元服をした時だったろうか。それとも俺様のことを慕っていると頬を染めながら言って来た時だったろうか。いや、そんなに最近のことじゃない。もっと昔。風が吹くたびに靡くあの長い髪がまだ兎の尾のように短かった時だった気がする。俺様の姿を見ると「佐助!」と、あどけない笑みを浮かべて駆け寄ってきた子供の頃。鍛錬で傷を負い血を流した俺様を見て自分のことのように痛さで泣き、抱きついてきた頃。その頃から既に思っていた。早く成長して欲しいと。アンタに早く自分を活かして欲しいと。柄にもなく物思いにふけりながら木の枝を一本一本飛び移っていた。その時だった。
「あぶなっ!」
後方から足元にクナイを投げ付けられた。任務遂行中に別のことを考えていたせいだろう。普段ならかわせた筈の攻撃に服が割かれた。怪我はしなかったが、そんなヘマをしでかすとは面目が丸つぶれだ。無かったことにしたいが、そんなことはできない。代わりに服を割いた代償はとってもらおう。相手の姿を視覚でとらえるべく振り返った。時刻、場所、得物からして同業者であることは分かるが、相手の位置を特定しなくては始末することはできない。するとまた攻撃が繰り出された。後方に飛び、腰に構えていた大手裏剣を放る。「ぐぁっ!」と声がした後にモノが落ちる音が聞こえた。一呼吸置き、目を閉じて気配を探る。もうヒトの存在を感じられなかった。相手は一人だったのだろう。追っ手が来ないうちに消えるのが一番だ。速度を上げて闇に溶けた。

作品名:改誓 作家名:ギリモン