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謎野うさぎ
謎野うさぎ
novelistID. 25775
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俺の家族を紹介・・・すんのか!?

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(・・・よし、誰もいないな。)
 バレないとは思っているが念のため周囲を確認して、マンションの裏口からそっと出る。
 黒髪のウィッグに濃い色のサングラス、いつもとは系統の違う服。ヒーローと知られたくない時、バーナビーはこの姿で外出する。
 最近、この恰好をすることが増えた。不要だと思っていたはずのコンビの相手に目を奪われ、意識を持って行かれて───やがて不覚にも、体を交わす関係になってしまってから、だ。
 素の自分を出してしまったからだろうか。以前は苦でもなかったヒーローの演技が、時々とても息苦しくなる。あんな男のせいで、と理性は非難しているが、感情はちっとも怒っていないのがどうにも腹立たしい。
(・・・。)
 結局は、昼間っからそんなことを考えてしまう自分が一番どうしようもない。バーナビーはコホン、と無意味に咳払いをして歩き始めた。

 手早く買物を済ませ、カフェに立ち寄る。街の中心部にほど近い四つ角に面したオープンカフェは、昼には遅くおやつにはまだ早いこの時間、いい具合に空いていた。
 陽は穏やかで暖かい。人目を避けたテラス席の端にカフェラテとクラブサンドのトレイを下ろし、バーナビーはゆったりと周囲を眺める。
 他意はなかった。ほとんどヒーローとしての習慣みたいなものだ。
 だからまさか───ワイドショウも真っ青の衝撃シーンに出くわすなんて思ってもみなかった。
「パパってば!もう早く早く!!」
「うおっ楓〜、危ないからそんな急ぐなって〜!?」
 小学生くらいだろうか。髪の長い少女と父親が手をつないで、道の北側からこちらへ急ぎ足で近付いてきた。ちらほら見える通行人が、ほほえましい二人組のために道をあけてやる。
(!!?)
 サングラスの下で、めいっぱい目を見開く。
 女の子に見覚えはないが、男の方にはあった───正直、あるなんてものじゃない。
「もう、良い席なくなっちゃうよー!」
「まだ大丈夫だよお〜」
 帽子の下からはみだした茶色の髪に、見慣れた感のあるいつもの服。普段からチャラけた喋り方は、気持ち悪いネコ撫で声成分がプラスされ、聞くに堪えなくなっている。
 下手すれば毎日顔を突き合わせている、コンビの相手がそこに居た。
(パ・・・パ?)
 頭の中で、聞こえたばかりの単語がリフレインする。
 動きの止まったバーナビーの目の前を、はしゃぐ少女に手を引かれた男が億劫そうに、けれどヤニ下がった顔で通り過ぎていく。素顔のままの男は、固まっている自分に気付きもしない。
 男と少女が西へと完全に消え去るまで、身じろぎひとつできなかった。
(パパ。)
 短い単語が、ぐるぐると脳内を回る。
 あの男は左の薬指に指輪をしている。だが初めてそういうコトに到る直前、その相手は亡くなったのだと聞いた。でなければ寝ることは絶対になかっただろう───人のものに手を出すなどリスクが大きすぎる。
 だけど。娘がいるなんて、今まで聞いたこともなかった。
(・・・っ!)
 硬直した景色の中で、カラン、とカップの氷が融けて揺れた。