俺の家族を紹介・・・すんのか!?
「じゃあな!」
ぽん、と肩を叩くと、相棒の肩があからさまにびくっと揺れる。
怖いものにぶち当たったネコみたいな様子に、虎徹は首を傾げた。
以前だったら露骨に嫌そうな顔をされ、最近ならフッと肩をすくめられるレベルだと思う。今日の反応はまた新しい、というか自信タップリでたいがい偉そうな相手には珍しい気がした。
(何だぁ?)
藁色の髪に眼鏡をかけた虎徹よりいくぶん若い男は、最初こそムカつくだけの相棒だった。が、ともにヒーローとして危険を乗り越え、信頼とか絆とかそんなものを育んでいたある日、何をどう間違ったのか───虎徹はその相手と寝てしまった。
女性にキャーキャー騒がれる癖に、意外とそういうコトに疎かった相手がベッドで見せる可愛げらしきものや、それ以降どこか柔らかくなった雰囲気は悪くなかった。もとい、かなりイイ。
というわけで会社で行なわれた定例ミーティングの後、最近の流れと本能的色々に従い相棒をバーに誘ったのだった、が。
「・・・いえ、用があるので。」
「あー、そ?」
最初の頃を思い出すようなお硬い空気に首を傾げつつ、肩を叩けばネコの反応。
(んんん?)
これは、おかしい。自分の限りなくワイルドな勘がそう告げている!
「なあバニー、」
再度、肩をとらえようとした手をスカッとかわされて、右手が宙を泳いだ。
「お、おい!」
「急ぐので、失礼。」
振り返りもしないまま、ものすごい早足で見慣れた後ろ姿が遠ざかっていく。
(んだアイツ。)
相手の様子が気にかかるの半分、お楽しみをフイにされたの半分で、思わず舌打ちが漏れた。
一度だけなら『まぁ気分じゃねー日もあるよな!』で済んだだろう。しかし二度三度・・・と続けば、偶然ではありえない。
(どーなってやがんだ??)
通算四回目、今日も華麗にスルーされ逃げられた虎徹は、ひとり淋しく酒をあおっていた。
明らかに距離を取られている。だが正直、心当たりはまっっったくなかった。
相変わらず仕事の上ではケンカもしょっちゅう、だが息が合っていないわけでもなく今期のヒーローポイントはうなぎ上り。相変わらず話が通じない、アポロンメディアのお偉いさん上司からの嫌味も最近はほとんどない。
ではプライベートの方だろうか。
(つったって、なあ・・・。)
最後にアレした時の記憶をたどって、思わずため息を吐く。そもそも記憶力が良いとは思っていないが、それにしても失言した覚えも嫌がることをした覚えも無いのだ。
(いや待てよアレか?・・・でもありゃあ、アイツも良いっつったし・・・)
本人が見たら激怒しそうなピンク映像を脳内で再生しつつ言動を振り返るが、やっぱり何かしたとも思えない。
「ったく、分っかんねーなぁ。」
へちょっと力なくカウンターに崩れ落ちる。
と、背後で入口の扉が軋む音がした。反射的に振り返ったのは、本能のなせる技だったかもしれない。
「っ!」
眼鏡越しの青い目と、かっきり視線が絡む。
「・・・バニー。」
ついさっきまであられもない姿を思い返していた相手が、無防備に驚いた表情をさらしていた。
作品名:俺の家族を紹介・・・すんのか!? 作家名:謎野うさぎ