ぐらにる 流れ こーるど
携帯端末に着信したメールは、相手先が不明のいかにも怪しいものだったが、件名が、「ニール」だったから開いた。その内容が、ただならぬ感じで、上級大尉様は、慌てて部屋を飛び出した。
「最寄空港のアライバルゲート付近のベンチに、ニールがへたりこんでいる。即座に回収し、現状復帰できる状態に戻してくれ。それまでの休暇は確保した、と、伝えておいて欲しい。 」
ニールという名前には、覚えがある。あるというより大切な名前だ。このメールの送信者は、おそらく、以前から聞いている自分たちの逢瀬のアリバイ工作をしてくれているニールの関係者からだろう。
空港までクルマを飛ばして駆けつけたら、本当にニールは、アライバルゲート付近のベンチで座り込んでいた。
「ニールッッ。」
腕を掴んで声をかけたら、ゆっくりと顔が持ち上げられた。顔が上気していて目が潤んでいる。明らかに発熱している様子だ。
「・・・グラハム? 」
「きみの知り合いから連絡が入った。どうして、私に連絡しないんだ。こんなところで休んでいても具合は良くなるはずがないだろう。」
「・・・え?・・・・ああ、ごめん・・・すぐにチケット取って帰るから・・・・悪いけど、チケット取ってくれないか? 特区までのヤツ・・・・・・たぶん、風邪なんだ。移ると、あんたもヤバイから・・・・」
ごめんなーと、辛いくせに笑っている恋人の顔に、グラハムのほうは眉間に皺を寄せた。無理をして来てくれたのだろうに、移るからと帰ろうとするのだ、自分の遠距離恋愛真っ最中の恋人は。有無を言わさず、担ぎ上げて運ぶことにした。クルマの助手席に乗せて、携帯端末で親友に連絡する。ちょっと特殊な職業の恋人なので、軍の医者に見せるわけには行かないから、そういうことで騒がない医者を紹介してもらう。親友には、いろいろと説明しているので、すぐに医者を紹介してくれた。
過労と風邪だという診断で、脱水症状が酷いからと、その処置だけしてもらって連れて帰った。あまり意識がはっきりしていない恋人は、ぐったりとして眠りこんでいる。ベッドにそっと降ろしたら、目を覚ました。
「・・・グラハム?・・・・」
「過労と風邪だそうだ。少しゆっくりとすること。・・・・それから、きみへの伝言を預かっている。休暇は確保したから現状復帰できる状態まで、私の世話になること、だそうだ。」
「え? 」
飛び起きたニールは、驚いた顔のまま、グラハムの携帯端末の文面を読んだ。確かに、そう書かれている。
「無理は感心しないぞ、姫。」
クスリが効いているのか、ニールは少し楽そうだ。あーあーと頭を掻いて苦笑している。
「違う。うちの・・・・俺のアリバイ工作してくれるヤツが風邪引いてさ。それで看病して具合が良くなったから、こっちに出てきたんだ。まさか、移ってるとは思わなくて、飛行機に乗ってから熱が出ちまったんだよ。・・・・ごめん、迷惑かけて・・・・・」
「私は迷惑などと思っていない。むしろ、そんな状態でやってきたことに歓喜している。・・・姫、よく来てくれた。」
無理してやってきてくれた姫を抱き締める。まだ少し熱い身体は、体重を預けるように力を抜く。確かめるようにキスしようとしたら、顔を避けられた。
「ダメだ。移る。」
「感染? むしろ歓迎だ。私が感染した場合、私も看病してくれるだろ? 姫。」
「・・バカ・・・・あんた、仕事が・・・・」
「私だって体調を崩すことはある。それに、ウイルス性の風邪なんてものは、避けようがないものだと思うんだが? きみの存在を確かめさせてもらわないと、私は寝られない。」
そう言うと、姫もニヤッと笑って、ベッドに倒れこんだ。抱き締めて口付けて、その存在を確認する。服をゆっくりと脱がせて脱がされて、人肌を感じて、どちらもほっとする。ぺたぺたと背中を触って、姫が心配そうな声を出す。
「あんた、冷えてるな? 」
「きみが熱いんだ。大丈夫なのか? 姫。私は、何も無理強いするつもりはないんだぞ? 」
「何にも考えないで眠りたいんだ。あんたしかできないから、そうしてくれないか? 」
「くくくく・・・・熱烈な誘い文句だ。姫が望まれるなら、仰せのままに。・・・・すぐに、私の身体も熱くなって、わからなくなる。」
姫は、ここに安眠を求めてやってくる。私だけが、姫に健やかな眠りを与えられる。その栄誉を私は姫からもぎ取って、現在に至っている。だから、姫がそうして欲しいと願えば叶えるのは、私の使命だ。足の間に、私の身体を挟みこみ、姫は嬉しそうに微笑む。
「久しぶり。」
「会いたかったとは言ってくれないのかね? 我が姫。」
「・・・・・安眠抱き枕が欲しかった・・・・・」
「微妙だが、姫らしい愛の囁きということで満足しよう。きみは、病が治るまで、私の茨の城から出られない。ずっと治らないように呪いをかけてしまいそうだ。」
「・・・あんたが風邪ひいて看病することになるんじゃないか? それも、ある意味、茨の城だよな? 」
「では、私にも姫の呪いをかけてくれ。治らなければ、ずっと一緒だ。」
「はははは・・・・・ひでぇー呪いだなあ。」
じゃあ、ウイルスをプレゼントするぜ、と、姫は深く口付けてきた。存分に、と、私もそれを受け入れる。明日、姫が元気になっていたら、それでいい。
刹那は、空港でロックオンがグラハムに回収されるまで監視していた。どう考えても感染しているだろうに、ちょいと遠征してくるぜ、なんて軽い口調で出て行ったロックオンが心配になったから尾行していたのだ。自分が回収して看病するよりも、グラハムのほうが良いだろうと思ったので、メールで回収の指示も出した。
やれやれ、と、回収されたのを見送って、特区へのチケットを取ろうとしたら、背後から、「この愚か者。」 と、罵倒が聞こえた。嫌な声に振り向いたら、そこには、ティエリアがアレルヤを従えるように仁王立ちしている。
「ああいう場合のメールは、もっとサーバーを経由させなければ、追跡されるだろうがっっ。・・・まあ、俺が手を加えておいたから問題はない。」
「ティエリア。」
一番厄介なのにバレた。原因は、アレルヤに違いないと睨んだら、違う違うと相手は手を振っている。
「最初から調べて知っていた。おまえらがやったなら、即座に撃ち殺すところだが、あの人の場合は別だ。」
刹那の恋人宣言が、あまりにも不審だったから、それからロックオンの行動をトレースして、行き先は知っていたらしい。アレルヤに、それを問い質して、そこからは、ティエリアも黙認していたのだ。
「あの人には借りがある。・・・・・だから、俺は、問題が発生するまで放置するつもりだったんだ。だいたい、おまえが風邪なんか引くから、こんなことになったんだ。原因は、きさまだっっ。」
「最寄空港のアライバルゲート付近のベンチに、ニールがへたりこんでいる。即座に回収し、現状復帰できる状態に戻してくれ。それまでの休暇は確保した、と、伝えておいて欲しい。 」
ニールという名前には、覚えがある。あるというより大切な名前だ。このメールの送信者は、おそらく、以前から聞いている自分たちの逢瀬のアリバイ工作をしてくれているニールの関係者からだろう。
空港までクルマを飛ばして駆けつけたら、本当にニールは、アライバルゲート付近のベンチで座り込んでいた。
「ニールッッ。」
腕を掴んで声をかけたら、ゆっくりと顔が持ち上げられた。顔が上気していて目が潤んでいる。明らかに発熱している様子だ。
「・・・グラハム? 」
「きみの知り合いから連絡が入った。どうして、私に連絡しないんだ。こんなところで休んでいても具合は良くなるはずがないだろう。」
「・・・え?・・・・ああ、ごめん・・・すぐにチケット取って帰るから・・・・悪いけど、チケット取ってくれないか? 特区までのヤツ・・・・・・たぶん、風邪なんだ。移ると、あんたもヤバイから・・・・」
ごめんなーと、辛いくせに笑っている恋人の顔に、グラハムのほうは眉間に皺を寄せた。無理をして来てくれたのだろうに、移るからと帰ろうとするのだ、自分の遠距離恋愛真っ最中の恋人は。有無を言わさず、担ぎ上げて運ぶことにした。クルマの助手席に乗せて、携帯端末で親友に連絡する。ちょっと特殊な職業の恋人なので、軍の医者に見せるわけには行かないから、そういうことで騒がない医者を紹介してもらう。親友には、いろいろと説明しているので、すぐに医者を紹介してくれた。
過労と風邪だという診断で、脱水症状が酷いからと、その処置だけしてもらって連れて帰った。あまり意識がはっきりしていない恋人は、ぐったりとして眠りこんでいる。ベッドにそっと降ろしたら、目を覚ました。
「・・・グラハム?・・・・」
「過労と風邪だそうだ。少しゆっくりとすること。・・・・それから、きみへの伝言を預かっている。休暇は確保したから現状復帰できる状態まで、私の世話になること、だそうだ。」
「え? 」
飛び起きたニールは、驚いた顔のまま、グラハムの携帯端末の文面を読んだ。確かに、そう書かれている。
「無理は感心しないぞ、姫。」
クスリが効いているのか、ニールは少し楽そうだ。あーあーと頭を掻いて苦笑している。
「違う。うちの・・・・俺のアリバイ工作してくれるヤツが風邪引いてさ。それで看病して具合が良くなったから、こっちに出てきたんだ。まさか、移ってるとは思わなくて、飛行機に乗ってから熱が出ちまったんだよ。・・・・ごめん、迷惑かけて・・・・・」
「私は迷惑などと思っていない。むしろ、そんな状態でやってきたことに歓喜している。・・・姫、よく来てくれた。」
無理してやってきてくれた姫を抱き締める。まだ少し熱い身体は、体重を預けるように力を抜く。確かめるようにキスしようとしたら、顔を避けられた。
「ダメだ。移る。」
「感染? むしろ歓迎だ。私が感染した場合、私も看病してくれるだろ? 姫。」
「・・バカ・・・・あんた、仕事が・・・・」
「私だって体調を崩すことはある。それに、ウイルス性の風邪なんてものは、避けようがないものだと思うんだが? きみの存在を確かめさせてもらわないと、私は寝られない。」
そう言うと、姫もニヤッと笑って、ベッドに倒れこんだ。抱き締めて口付けて、その存在を確認する。服をゆっくりと脱がせて脱がされて、人肌を感じて、どちらもほっとする。ぺたぺたと背中を触って、姫が心配そうな声を出す。
「あんた、冷えてるな? 」
「きみが熱いんだ。大丈夫なのか? 姫。私は、何も無理強いするつもりはないんだぞ? 」
「何にも考えないで眠りたいんだ。あんたしかできないから、そうしてくれないか? 」
「くくくく・・・・熱烈な誘い文句だ。姫が望まれるなら、仰せのままに。・・・・すぐに、私の身体も熱くなって、わからなくなる。」
姫は、ここに安眠を求めてやってくる。私だけが、姫に健やかな眠りを与えられる。その栄誉を私は姫からもぎ取って、現在に至っている。だから、姫がそうして欲しいと願えば叶えるのは、私の使命だ。足の間に、私の身体を挟みこみ、姫は嬉しそうに微笑む。
「久しぶり。」
「会いたかったとは言ってくれないのかね? 我が姫。」
「・・・・・安眠抱き枕が欲しかった・・・・・」
「微妙だが、姫らしい愛の囁きということで満足しよう。きみは、病が治るまで、私の茨の城から出られない。ずっと治らないように呪いをかけてしまいそうだ。」
「・・・あんたが風邪ひいて看病することになるんじゃないか? それも、ある意味、茨の城だよな? 」
「では、私にも姫の呪いをかけてくれ。治らなければ、ずっと一緒だ。」
「はははは・・・・・ひでぇー呪いだなあ。」
じゃあ、ウイルスをプレゼントするぜ、と、姫は深く口付けてきた。存分に、と、私もそれを受け入れる。明日、姫が元気になっていたら、それでいい。
刹那は、空港でロックオンがグラハムに回収されるまで監視していた。どう考えても感染しているだろうに、ちょいと遠征してくるぜ、なんて軽い口調で出て行ったロックオンが心配になったから尾行していたのだ。自分が回収して看病するよりも、グラハムのほうが良いだろうと思ったので、メールで回収の指示も出した。
やれやれ、と、回収されたのを見送って、特区へのチケットを取ろうとしたら、背後から、「この愚か者。」 と、罵倒が聞こえた。嫌な声に振り向いたら、そこには、ティエリアがアレルヤを従えるように仁王立ちしている。
「ああいう場合のメールは、もっとサーバーを経由させなければ、追跡されるだろうがっっ。・・・まあ、俺が手を加えておいたから問題はない。」
「ティエリア。」
一番厄介なのにバレた。原因は、アレルヤに違いないと睨んだら、違う違うと相手は手を振っている。
「最初から調べて知っていた。おまえらがやったなら、即座に撃ち殺すところだが、あの人の場合は別だ。」
刹那の恋人宣言が、あまりにも不審だったから、それからロックオンの行動をトレースして、行き先は知っていたらしい。アレルヤに、それを問い質して、そこからは、ティエリアも黙認していたのだ。
「あの人には借りがある。・・・・・だから、俺は、問題が発生するまで放置するつもりだったんだ。だいたい、おまえが風邪なんか引くから、こんなことになったんだ。原因は、きさまだっっ。」
作品名:ぐらにる 流れ こーるど 作家名:篠義