ぐらにる 流れ こーるど
刹那が風邪を引いたから、休暇を少し延ばしてほしいという連絡が入って、ティエリアも慌ててアレルヤを伴って降りてきた。せっかくの休暇なのに、刹那の看病で終わってしまったら、ユニオンには行けないから、アレルヤに交替させようとしたのだ。自分が知っていることは隠しておきたいから、自分は姿を出せない。それなのに、刹那が五日ばかりで全快したので到着した時には空港へ出向いているなんてことになって、さらに慌てた。こっそりと顔を見たら、顔色が悪いことこの上もなかったから、刹那と同様にユニオンまでの尾行を開始した。もし、途中で具合が悪くなっても、どこかで回収して病院へ叩き込むつもりで、その手配もした。したものの、刹那が送ったメールをヴェーダ経由で確認して、そちらへ細工して、グラハムに回収させる案も採用することにした。たぶん、自分たちには弱ったとこなんて見せない人だから、そちらで看病してもらうほうが早く良くなるだろうというのは、刹那と同じ結論だった。
「休暇の延長は、あの人が回復するまで延ばしてやる。その代わり、ちゃんと回収して戻って来い。」
今のところ、緊急の要件が入ることは、あまりない。だから、多少の休暇の延長があっても問題はないのだ。
「ロックオンって、結局、ちゃんとした休暇は、ほとんど取ってないもんね。ねぇ、刹那、ティエリア、僕らも二、三日は、こっちに滞在して少しぐらいゆっくりしようよ。」
アレルヤは能天気なことを言っているが、ティエリアは、まだ刹那を睨んだままだ。
「まだ言いたいことがあるのか? ティエリア。」
「あの人は・・・・・バレたら、どうするつもりだと思う? 刹那。」
問題は、ロックオンがCBの人間だとバレた場合、その対処はどうするつもりかということだ。または、ロックオンがユニオン側に寝返るというのもある。それらを考えていたティエリアは、刹那に尋ねる。一番身近に居る刹那なら、そのことを聞いているかもしれないと思ったからだ。
「・・・・自分の手で殺すつもりだと言った。俺にも手出し無用と言われている。」
「そうか・・・人間とは理解不能な部分があるな。」
気持ちは通じ合っているだろう。そうでなければ、休暇のたびに、わざわざユニオンまで遠征しない。だが、殺すと言ったロックオンに躊躇はなかった。その点では、刹那は心配していない。裏切るなんてことはないと確信していると、ティエリアにも伝える。なぜ、そんな相手と付き合うのか、ティエリアには理解不能だ。どうせなら、本当に刹那にしておけば、こんな面倒はないのだ。
「でもね、ティエリア。好きになるのに理屈も何もないじゃない?」
「そういうものか。」
「僕もなかったよ。」
「・・・・あーわかった。とりあえず、今日は、どこかで泊まろう。それでいいな? 」
二人にしかわからない会話をして、ティエリアはアレルヤに宿泊施設を検索させる。どうやら、ここにも、いろいろとあるらしい。
翌日、治ると言われていたニールは、悪化させただけだった。声が出ないわ、起き上がれないわ、で、唸っている。で、往診を頼もうというグラハムには枕を投げつけた。全身これでもかと点けられている痕を、見られるぐらいなら、このままでいいと嘆いているらしい。ぼこぼこと枕で叩かれて、グラハムも意味を理解して諦めた。
「わかった。では、私が心をこめて看病させていただこう。・・・なに? 仕事? 有給を申請してもらった。だから、いいんだ。」
「・・・うー・・・」
「今は忙しくないから大丈夫だ、姫。とりあえず、着替えて食事してくれないか? 私の拙い料理で申し訳ないが、スープを温めた。」
過労で風邪の人間に、いつものようにやってしまったのは、グラハムで、それについては反省した。治るどころか悪化させたのだから、ここは姫のナイトとしては、心の限り看病させていただく所存だ。いつもは世話してくれる相手に尽くすというのは、新鮮だとグラハムはニコニコしている。なんだか、それが、「治るな。」 という呪いのようで、ニールには不安だ。
「ビリーに風邪に良さそうなものを頼んだから、夕方には、それも届く。欲しいものがあったら、紙に書き付けてくれれば、調達してくる。」
だが、ニコニコとしているグラハムは嬉しそうで、怒っているのも長くは続かない。渡された紙に、さらさらと何事か書き付けると、ニールはベッドにもぐりこむ。
「安眠抱き枕のグラハム」
その文字に、やはりグラハムは笑って、いそいそとベッドに入る。ただし、今度は本当に抱き枕に徹するつもりだ。
作品名:ぐらにる 流れ こーるど 作家名:篠義