記憶喪失!
ガッシャーーーーーン!!!!!....バタッ!....
「な!何だ一体!?」
日の差し込む日中のアキ宅、いつものようにノックもせず勝手に入り口のドアを開けようとしたアクトはものすごい物音に驚き勢いよく
ドアを開いた。
「アキ何だ今の音は??」
「おい!カヤナあそこ!」
二階でくつろいでいたカヤナとクラトも急いで駆けつけている。クラトの指した方の床に一人の華奢な少女が倒れていた。
「アキ!!」
同時に三人駆け寄り、アクトはクラトの前を遮断するように廻り込み、倒れているアキの上体を抱き上げた。そのまま呼びかけて軽く揺すってみるが反応のなさに
アクトも見つめるクラトの表情も焦りに満ちている。
「......気絶...そうか、どうやら棚の中にあったこれで頭を強く打ったんじゃないか、他に傷はなさそうだ。」
冷静なカヤナがアキの体の側に転がっている頑丈そうな鞘に収まっている大剣を軽々と持ち上げながら言った。
「それで....?一体なんでまた...まぁ、ドジなアキにはありえる事故..かもな....」
困った表情で頭を掻くクラトだが、アクトは会話を聞き、状況を理解しつつも意識が戻らないアキに焦る。
「アキ!しっかりしろ!」
「................................ん............っ痛.......」
「気がついたか!!?」
眉を歪めまぶたがゆっくり開かれてゆく。
「....................」
「アキ、大丈夫か....?」
「.....................?................誰?」
「「「!!!!!!?」」」
アキ・ミヤズ。人生初の記憶喪失だった。
「という感じだ。分かったかアキ?」
二階でベッドに座りながらアキは長々と記憶のない自分の事を説明してくれていたカヤナの質問にキョトンとしながら見上げている。クラトの協力もあってトウラに
育てられた事や自分が鍛冶師という職を持っているらしい事も大体聞かされたが、話の内容があまりにも普通の人生とはかけ離れていて理解に苦しむものだった。
タカマハラという国でトウラに育てられヤカミで自分も自立し始めたら戦女神が自分の身体に光臨し、そのせいもあって自分は敵国のこの国に目の前の銀髪の男に攫われ
その兄が助けに来てくれたが失敗し、今も敵国で三人で監視されながらも仲良く暮らしているという。
「う...~ん....なんとなく..?」
「まぁ、焦っても仕方ない。ゆっくり思い出していこう、もしかしたら一時的なものかもしれん」
「...はい...」
カヤナがアキの頭にポンっと手を乗せ大丈夫というように微笑むとアキは理由は分からないが安心した。きっと今までもそうだったと思えるような
安らかな気持ちになれた。
「お前...ほんとに俺の事も覚えてねーのかよ?」
「え...?」
アクトが不機嫌な口調とするどい目つきでアキを見下ろす。
「やめろアクト、アキが怖がるだろ」
「お前は黙ってろ!アキ、覚えてねーなら....思い出させてやるよ!」
言ってすぐアクトがアキの腕を思いっきり自分の方へ乱暴に引き寄せる。カヤナがすぐさま止めようと立ち上がったが、
アクトはすばやくそのままの勢いでアキの顎を持ち上げ唇に口付けた。あまりにも突然でアキもクラトも驚いて固まっている。
カヤナが引き離そうと手を伸ばしたがアクトが先に唇を彼女のそれから離した。
「...分かっただろ...?お前は俺の女だ」
「!!」
「アクト!!貴様アキにデタラメを教えるな!!」
カヤナが全否定するもアキはアクトの言った一言が頭から離れない。しかも自分は確かに先ほどのキスに覚えがあるような気がしないでもなかった。
「......私....」
「アキ!気にするな。こいつの妄想だ」
「カヤナ、落ち着けって」
「デタラメでも妄想でもない。事実だ」
「アキがお前のような男を選ぶか!まぁ、この際クラトなら分からなくもないがな」
「何だと!!」
「この際って..?? .....と、とにかく二人とも落ち着けって!アキが困ってるじゃないか..なぁ?アキ」
「..............私....アクトさんの言った通りかも...しれないです.....」
「「!!?」」
愕然としたカヤナとクラトに対しアクトの表情は見るからに上機嫌に変わった。
「どうやら思い出したようだな」
「アキ!この男は我々の敵だ!」
「でも、カヤナ、私何だか....その...キスされて...何かが分かったような...分かるような.....不思議な感じがしたの....」
「不思議な感じって何か思い出せそうだったって事か...?う~ん...まぁ、記憶障害を治すにはショック療法とも聞いたことがあるけど...」
顎に手を乗せ真剣そうに考え込むクラトを無視し、アクトはアキの腕を掴んだまま階段の方へ歩き出した。
「おい!アキをどこへ連れて行く気だ!?」
「どこって、でぇとだよ。どうせ今のこいつには鍛冶はまだ無理だろ」
「貴様と一緒になどさせん!」
「ったく、これ以上邪魔するなら...」
睨み合っていた二人動いたかと思うとアクトが剣を出し構えカヤナの手元にリジルが浮かび上がった。
「きゃあ!!」
普段のアキでも斬り合いは怖がるが今のアキはいつも以上に怯えている。
「やめろ二人とも!!カヤナもここは引け!アキが見ているんだぞ!」
「チッ.......相変わらず。甘いな、お前は」
やれやれというようにアクトが剣を収めるとカヤナもクラトの真剣な目を見た後剣を下ろした。
「そんなに怖がんなよ、俺はいつもお前を守ってやってたんだぜ?」
「........」
アキの怯えた眼差しに少し面白くなさそうな顔で言いながらアクトは半信半疑のアキを連れ階段を降りて行った。
「大丈夫だってカヤナ、アクトがついてれば外も安全だよ」
不機嫌なカヤナを落ち着かせようと言った言葉が更に彼女の神経に触れた。
「安全....?これだからお前はあいつに勝てないんだ!あの男の傍が一番危険だろう!」
「え....??な、なんで...??」
「.........クラト...剣の稽古をしてやる..」
「はぁ!!?」
その後鍛冶屋はいつもとは違った激しい金属音がしばらくの間鳴り響いていた。
「あ、あの、どこ行くんですか?」
「何処って.......そうだな....お前はどこいきたい?」
「え?」
とりあえずでぇとと言ったものの、実際何も考えはなかったためアクトは足を止めアキに向き直り逆に問う。
強きな態度のアクトにおされ気味のアキはタジタジとしながら考えを巡らせた。
「うん....っと................あ、アクトさんの行きたいとこがいいです...!」
「俺の....?」
「は、はい!」