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永遠に失われしもの 第二章

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「さて、お散歩の続きをなさいますか?」
 
 ほんの少しの沈黙の後、シエルは答えた。
 「いや、もう散歩はいい。」
 ・・また、噴水の音を聞いて喉が渇いては堪らない。・・

 「それではご本でも読まれますか?」
 「ああ。」
 「では、書庫にお連れ致しましょう。」

 暗い廊下にまた、ぽつぽつと松明が点く。
 しばらく歩いて、階段を上がりすぐ右手のドアをセバスチャンが開けた。

 燭台から火を、ランプに移し変え部屋全体が見渡せるようになると、
 思ったより広いことに気がついた。
 部屋の中央にある暖炉の前には、読書用の本受けのついた椅子が1脚置いてある。

 壁には一面天井までの本棚があり、そのガラス戸の中には、一見して古書であろうものがずらっと揃っている。

 「こんなにあると、読みたい本を探すだけで何日もかかりそうだな。」
 本棚を見上げて、シエルはつぶやいた。

 「書名か著者を言ってくだされば、すぐお取りしますよ。
  ジャンルでも結構ですが。」
 
 「これを全部読んだのか?」
 半ばあきれ果てながら、シエルが聞く。
 まぁ答えは聞く前から分かっていたけれども。

 「はい。といっても分野にある程度の偏りはありますよ。」
 
 目の前の本の背表紙を読むと「ケルト文化における模様の変遷 vol2」であった。

 ・・この本にどういう興味を持てるんだ??こいつは。・・

 「読まれる際は、これをつけてくださいね。」
 とセバスチャンは、シエルに手袋を渡した。
 「でないと本が傷みますので。」

 そして胸に手を置き、一礼してから、
 「失礼して、お茶の準備をしてまいります。
 それから、坊ちゃん。
 人の書庫の本を見て、
 所有者の性向を知ろうとするのは悪趣味ですよ。」

 と微笑し、セバスチャンは扉を閉めた。