永遠に失われしもの 第二章
まだシエルが、どの本を読むか決めかねている間に、
再びドアがノックされ、セバスチャンが入ってきた。
「お茶をお持ちしました。」
銀のワゴンの上には、ソーサーとティーカップ、砂時計や紅茶の入った缶が置かれている。
「本日は、ピックウィックのレモンティーで、
カップはマイセンのブルーオニオンをご用意させて頂きました。」
部屋の円形テーブルにさっと、テーブルクロスを敷いて、砂時計が流れ落ちるのを待って、紅茶をソーサーからカップにつぐ。
といっても中身は空なのだ。
「ではごゆっくりと・・・」
執事はまた礼をして、消えていった。
シエルは、自分が人間であった頃読み途中であったポーの小説を見つけたが、
あまりの我が身の境遇の変化のせいか、
それまで読んでいた部分でさえ、まったく粗筋を覚えていない。
初めから読み直そうかとも考えたが、
何だか馬鹿馬鹿しくなって、
元あった場所に戻そうとすると、
ゴヤの画集があることに気がついた。
何とはなしに引っ張り出して、ページをぺらぺらめくる。
陰惨な絵の中でも、自分がとりわけ悪魔を題材に使用した絵ばかりに目を惹きつけられているのに気づくと、
思わず顔をしかめてしまう。
・・ファントムハイブの屋敷にいたときは、ゴヤの画集を見ようとなぞ、
まったく思い浮かびすらしなかったな・・
絵の中の悪魔はどれも異形で、見るものの恐怖心を煽るものばかりだ。
セバスチャンのように、心はさておき、
外見ではむしろ美しい悪魔などは一切、描かれてはいない。
・・ああ、でも天使と戦う際に目を閉じてと言っていたぐらいだから、本来の姿はやはり異形のものなのだろうか・・
・・そして悪魔になったということは、僕もいつしか、このような異形のものへと変質するのだろうか・・・・
作品名:永遠に失われしもの 第二章 作家名:くろ