神の天秤2
明らかな殺意を向けてくる相手に、ローニカは眉をしかめた。
「出てくる気がないなら帰れ。いや、やはりいい、そのまま帰れ」
「んだよー、俺だってじじいの顔拝むのなんてごめんだったぜ」
ひょこっと顔を出したのはトッズだ。しかし場所が問題だった。ここは前王リリアノの居るランテ領なのだ。
「ここまで辿ってこられたか」
「……どこにいる」
「さて」
殺気が膨れ上がる。しかしローニカは動こうとしない。ぴしゃりと言い切る。
「私を殺しても、あの方には辿りつけん」
「どうかなあ。俺も色々、えげつないやり方知ってるし?」
空気が重く、爆発しそうな緊張をはらんでいく。
ふん、とローニカは鼻で笑った。
「殺すなと言われていなければ、ここでおしまいにしてやるのだが」
「……じじい、どこに隠したよ」
「さて。しかし言伝は預かっている。『時間をください』というのがあの方のお言葉だ。本当に、こんな男のどこがいいのだか理解しかねる」
「あっそ」
二人は今だ睨み合いながらじりっと離れた。
本職のトッズが行方を探せないほど、レハトの消え方は巧妙だった。全ての繋がりという繋がりを使い、噂をバラまき混乱させ、影の護衛であるトッズを置いて行方をくらませるなど、ローニカのような手練れの助けがあればこそだろう。
「探すなとは言われてないからね」
平坦な声で呟くと、トッズは再び闇に消えていった。
残されたローニカは首を鳴らす。
「やれやれ……」
短い間とは言え、王城へ迎え入れその側で成長を見守っていた子供の行く末に、ローニカは再び息を吐いてうなだれた。