神の天秤3
一年後、城に戻ってきた寵愛者の腕には丸々とした赤ん坊が抱かれていた。
玉座の間で六代国王であるヴァイルの前に出たレハトは、すやすやと眠る子供を抱きながらひざまずいている。
「しかしまあ……本当に産んで、戻ってくるとはね」
「陛下におかれましてはご機嫌うるわしゅう」
「ああそういうのいいから」
国王としての言葉づかいではなく、呆れたように言ったヴァイルは一転して身を乗り出した。
「で、どうなの」
子供の藁色の産毛をかきあげるようにして、その額を見せる。
つるんとしたそこには、何の徴もなかった。
「……へえ。で、それは本当にあんたの子供なわけ?」
「もちろん、僕の子供だよ」
「父親は? こっちとしては心当たりのやつはいないんだけど」
微笑みながら尋ねられ、微笑み返す。しかし答えない。
「あくまでそれは言わないんだ。ったく、レハトって本当に強情だよねー」
再び呆れたように言いながら、ヴァイルの口元はさらに面白そうに笑っている。
「まあいいけどさ、自分でわかってるんでしょ?」
「ええ、陛下」
「ならいいや。レハトが居ない間、仕事の割り振り大変だったんだから、すぐに戻ってよ」
「仰せのままに」
「じゃ、下がっていいよ」
深く一礼してレハトは大事そうに子供を抱いて玉座の間を出ていく。
「何でまあ、そういう大変な道選ぶんだろうな」
その後ろ姿に呟いて、ヴァイルもまた執務に戻るため立ち上がった。
かつてのレハトの部屋はそのままで、サニャが目を潤ませて主人を迎えてくれる。
「お帰りなさいませ、レハト様」
「ただいま、サニャ。居てくれてありがとう」
「サニャはレハト様づきですもの!お茶をおいれしてきますね!」
軽い足音をたてて彼女が走り去ると、深く椅子に腰掛けて、レハトは窓の外に呼びかけた。
視線はまだすやすやと眠ったままの、腕の中の子供に向けられている。
「久しぶり」
声に合わせたように影の中から現れたトッズは、一年前と変わったところはない。見た目にはそうだった。
しかしその目が燃えるようにレハトを睨む。
「この子ね、徴がなくて本当に良かった。ヴァイルが即位したばっかりだったから、大丈夫だとは思ったんだけどね」
優しく子供に語りかけたかと思うと、レハトはじっとトッズを見据えた。
何も語らない男は、一歩室内に踏み込む。
「僕とトッズの子供だよ」
「そう」
産みの繋がりで、トッズにも影響はあったはずだった。
不意にトッズが身を翻して闇に消えると、すぐにサニャが顔を出した。
「お待たせしました!」
レハトは、それに微笑んだ。
玉座の間で六代国王であるヴァイルの前に出たレハトは、すやすやと眠る子供を抱きながらひざまずいている。
「しかしまあ……本当に産んで、戻ってくるとはね」
「陛下におかれましてはご機嫌うるわしゅう」
「ああそういうのいいから」
国王としての言葉づかいではなく、呆れたように言ったヴァイルは一転して身を乗り出した。
「で、どうなの」
子供の藁色の産毛をかきあげるようにして、その額を見せる。
つるんとしたそこには、何の徴もなかった。
「……へえ。で、それは本当にあんたの子供なわけ?」
「もちろん、僕の子供だよ」
「父親は? こっちとしては心当たりのやつはいないんだけど」
微笑みながら尋ねられ、微笑み返す。しかし答えない。
「あくまでそれは言わないんだ。ったく、レハトって本当に強情だよねー」
再び呆れたように言いながら、ヴァイルの口元はさらに面白そうに笑っている。
「まあいいけどさ、自分でわかってるんでしょ?」
「ええ、陛下」
「ならいいや。レハトが居ない間、仕事の割り振り大変だったんだから、すぐに戻ってよ」
「仰せのままに」
「じゃ、下がっていいよ」
深く一礼してレハトは大事そうに子供を抱いて玉座の間を出ていく。
「何でまあ、そういう大変な道選ぶんだろうな」
その後ろ姿に呟いて、ヴァイルもまた執務に戻るため立ち上がった。
かつてのレハトの部屋はそのままで、サニャが目を潤ませて主人を迎えてくれる。
「お帰りなさいませ、レハト様」
「ただいま、サニャ。居てくれてありがとう」
「サニャはレハト様づきですもの!お茶をおいれしてきますね!」
軽い足音をたてて彼女が走り去ると、深く椅子に腰掛けて、レハトは窓の外に呼びかけた。
視線はまだすやすやと眠ったままの、腕の中の子供に向けられている。
「久しぶり」
声に合わせたように影の中から現れたトッズは、一年前と変わったところはない。見た目にはそうだった。
しかしその目が燃えるようにレハトを睨む。
「この子ね、徴がなくて本当に良かった。ヴァイルが即位したばっかりだったから、大丈夫だとは思ったんだけどね」
優しく子供に語りかけたかと思うと、レハトはじっとトッズを見据えた。
何も語らない男は、一歩室内に踏み込む。
「僕とトッズの子供だよ」
「そう」
産みの繋がりで、トッズにも影響はあったはずだった。
不意にトッズが身を翻して闇に消えると、すぐにサニャが顔を出した。
「お待たせしました!」
レハトは、それに微笑んだ。