二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

神の天秤3

INDEX|3ページ/3ページ|

前のページ
 



質素な鹿車に揺られて、レハトは子供と一緒に郊外へ出かけていた。
ごとごとと振動に耐えて、やがて小さな村に着く。
真っ先に鹿車から降りたのは、苦い顔のトッズだった。護衛としてではなく、なぜか御用商人として同行しているので、人前に出ざるを得ない。
男の後ろから、常にない質素な格好のレハト親子が降り立ち、すぐに歩み始めた。そのしっかりした足取りで、ここには目的を持ってやってきたということがわかる。
あーうーと声を発して機嫌のいい様子の子供を抱いて、レハトはすぐに目的の場所に着いた。
後ろから面倒臭そうについてきていたトッズは、目の前に広がるその光景に思わず息を飲んだ。
黄色の花が一面に咲き乱れ、その間を進んだレハトが振り返って笑う。

「前に言ってたよね。ねえ、僕の居た村だって、知ってたの?」

それはレハトがまだ寵愛者として城で試されている頃だ。レハトにせがまれ、トッズが語った話の一つ。
穏やかで幸福そうな、美しい花の咲く村の話。トッズの理想を具現化したような村は、あまりにも美しかった。

「覚えてたの」
「聞いてすぐ、僕の村の話かなって思ったんだ。でも確信がなくて。やっぱりここのことだったんだ」

トッズは細い目をさらにすがめて、二人を見る。

「ねえ、僕を愛してる?」
「……憎んでる」
「殺したいくらい?」

答えず、トッズはレハトに歩み寄った。その細い首に手をかける。
あうーとしゃべりながら、子供がトッズの腕に小さな指をのばした。
青い空に、黄色の花が甘い香りを放って空気を染めて、葉の緑が揺れている。
温かい小さな指が、しっかりとトッズの服を掴んだ。
レハトは目を閉じている。
それはキスを待つようにも、諦めているようにも見えた。風が服と髪を揺らし、レハトの額の徴が露になる。

「……」

唇を噛んで、トッズは温もりを抱きしめた。過去に幾度もしたように、ぎゅっと強く。
しかし、未分化だった頃と違い、成長したレハトは腕の中にはおさまりきらない。黙ったままのレハトをなおも強く抱いて、トッズは苦い声で罵った。

「お前さ、本当に馬鹿だね。あーもう、馬鹿馬鹿、極め付きの馬鹿!」
「そうかな」
「あー……。知ってたけどね。馬鹿なのはお前さんじゃなくて俺だよね。あーもーーーー!!」

レハトの胸に押しつけられていた子供が、窮屈さにぐずると、トッズは腕の力を緩めてその顔をのぞきこんだ。

「……俺の子供?」
「もちろん」
「だよなー。だるくなったし。何か似てるし。レハトに似た方がよかったのに」
「そう? 僕はトッズに似てて嬉しかったよ?」
「あー……」

苦笑したトッズは、すべすべしたレハトの頬に頬をすり寄せた。髭の当たる感触がくすぐったくて、レハトは軽い声をあげて笑う。

「どうしよう、愛してる、愛してた、お前を憎んでて、でもやっぱり愛してた」
「僕はずっと愛してたよ」
「……一番じゃなかったじゃない」

恨みがましい目をするトッズに、レハトは苦笑して子供を揺すりあげる。
トッズと同じくらい好きで愛していたと思う人がいたけれど、それは結局愛に似た別のものだった。

「全部あげる。ここに住んでた僕も、城で暮らした僕も、いつか城を去る僕も、全部トッズにあげる。ねえだから、僕にトッズを全部ちょうだい」
「ずるいな、レハトは」

レハトが差し出して見せたのは、トッズが欲しかったものだった。美しい理想の村で暮らした過去を持つ、美しく成長した寵愛者と、血を分けた子供。
自分にはないものだと理解していた家族という繋がり。愛しい人。

「本当にずるい。俺が欲しいものを全部わかって、そういって見せるんだ」
「だって好きな人のことなんてわかるでしょ。愛してるんだもん」

もう一度腕の中の子供を揺すりあげ、レハトは上目で男の返事をねだる。

「ねえ、ちょうだい」
「俺はね、ずっとレハトのものだよ。むしろレハトのじゃなかったことがないね」

はは、と笑い声をたてると、トッズはレハトの肩に顔を埋めた。

「一目惚れしてさ、レハトを助けて、ああ、こんな人生が待ってるなんて思わなかった」
「僕だって思わなかった」

トッズはレハトの首筋をなで上げるように押さえ、唇を重ねた。柔らかい感触が痺れるような喜びをもたらす。

「……愛してる」
「僕も愛してる」

にっこりと笑ったレハトは、僕は勝ったよ、と小さく呟いた。


作品名:神の天秤3 作家名:はまこ