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[ガリプロ]日の射す丘で

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 雨上がりの火曜日、広がる青空と白い雲のコントラスト。
 つやつやに光る芝生の丘のてっぺんに、白亜のあずまやがある。
 そこが彼女たちのお気に入りの場所だった。






日の射す丘で






 アーチを描く柱と、つんと尖った丸い屋根と、石でできた上品なベンチがあるそのあずまやは、屋敷から少し離れた丘の上にあってオーストリアさんのお気に入りだった。あの人は午前中の政務を終え、政治的な話も含むランチを終えると、ほんの少しの間だけ本を持って丘の上のあずまやに行く。
「ハンガリー、あなたも来ますか」
 と、彼女が眼鏡の奥の目を細めて尋ねてくれる時は、俺もお供することが多い。お茶の支度と、お菓子でも持って行けばそこは窮屈な屋敷とは大違いの楽園だった。
 今日のオーストリアさんは、楽しみに読んでいた本が佳境だとかでいそいそと一人丘に向かって行った。
 こういうときはじゃまをせずに、馬の面倒でも見てやりながら遠目に読書をする姿を眺めているのが一番だ。

 邪魔さえ入らなければ。

 麗しの主君の読書をする姿を遠目に眺め、さて愛馬の毛並でも梳いてやるかとブラシを手にしたところで、視界のすみでがっさがっさと植え込みが揺れた。
 丘の上に続く小道の脇を、鹿のようにはしっこい何かが身を隠しながら駆け上がっていく。
 ちらほら植え込みから垣間見える後ろ姿にはあからさまに見覚えがあった。
「よう、お嬢ちゃん。相変わらずシケた趣味だな!」
 オーストリアさんの真横の茂みから頭を突き出すと、プロイセンは両足を肩幅に開いて偉そうにふんぞり返って声を張り上げた。
「・・・」
 読書に夢中のオーストリアさんは、騒音を一端聞こえなかったことにして、きりのいいところまで読み進めてからしおりを挟んで本を閉じる。その間、銀髪ロングヘアに植え込みの枯れ葉や小枝をくっつけっぱなしで仁王立ちを続けるプロイセン。シュールな光景だ。
「わたしの趣味をあなたにどうこう言われる覚えはありませんが、今日は何か用事ですか」
 オーストリアさんの反応はいたって冷静だったが、プロイセンもその程度でたじろぐ女ではない。いっそう胸を張ると、ふふんと鼻先でせせら笑って紺色のコートをぴらりと広げて見せた。
「どうだ、フランス製の新作だぞ」
「はあ」
 オーストリアさんの返答は煮えきらない。
 彼女にとっては本の続きの方がなんぼか気になる話題に違いない。
「おまえにはとても手が出せねえ値段だろうなあー、イタリアちゃん手放して領土もうちょっと割譲したら買ってやらなくもないのになあー」 プロイセンは底意地悪い笑みを作るとオーストリアさんの迷惑顔をのぞき込む。対するオーストリアさんは、言い返しもせずにげんなりしている。
 品がないばかりか学習能力もないのか、懲りずにオーストリアさんを侮辱し続けるプロイセンを野放しにしておくわけにも行かない。
 俺は容赦なくプロイセンの背後に歩み寄り、コートの裾をドレスのようにつまみ上げて見せびらかしている両手を背中にねじりあげた。
「ふごっ!?」
「いーいー加減にしろよー? プロイセーン」
 すごんでやると銀色頭がびくっと震えた。あほだ。
「いででで、痛い痛い、おまえ女扱いが乱暴だとお嬢ちゃんに嫌われんぞ!!」
 じたばた足を踏みならすプロイセン。
「おまえがいちいちオーストリアさんに絡みに来なけりゃいいんだろうが!」
 手を離してやると、プロイセンは子供のように頬を膨らませて振り返った。フリルのブラウスも、走り回るせいでしごく健康的な腿をのぞかせるスカートも見たことのない形だから、新調した一張羅だろう。
 このあほな幼なじみは、オーストリアさんをからかうためには服を一式新調して来ることも厭わないし、来る途中の隠密行動で葉っぱだらけにしてしまうことも厭わない。
「ハン、あたしにヒザマズいて情けを乞うなら、お下がりのひとつもくれてやるって言いに来てやったんじゃねーか」
 ぼさぼさに振り乱した髪の下で、強がる瞳はさっきの恐怖で潤んでいる。俺に怒られて涙目になるくらいなら、オーストリアさんへの態度をちょっと改めればいいのに、頭の悪い女だ。
 光の加減でワインレッドの陰がさす水色の瞳が、日光にきらきらしている。喧嘩腰を改める気はないらしい。
「じゃあ、今この場でおまえの服を脱がせてやろうか」
 よいしょ、と両手首をつかんで再びねじりあげようとすると、プロイセンが硬直した。
「遅いですよ、ハンガリー」
 はあ、とため息混じりにオーストリアさんが言う。
「すみません、今こいつのコートひっぺがしたら追い返すんで」
「やだっ、ばか、やめろぉ!! 追い剥ぎ! 盗賊!」
 プロイセンが暴れるのを押さえ込む。残念ながら手も足も俺のほうが一回りリーチがあるので、プロイセンはあっという間に手の中で身動きがとれなくなってぎゃあぎゃあわめき出す。
「その人のコートなんかいりませんよ、お馬鹿さん。お互い待ち人が来たのだからさっさと用事を済ませて仕事に戻ったらいかがですか」
 本を脇に抱えると、オーストリアさんが優雅に髪をかきあげた。
「「・・・へ」」
 俺とプロイセンは同時にぽかんと口を開けた。
 この人はなにを言っているのか。
「ばばばばば、ばか言ってるんじゃねえぞお嬢ちゃん! あたしはあんたに新しい服を見せに来ただけであって、別にこんな薄汚い騎馬民族風情に見せようとしたわけじゃ」
「何言ってるんですかオーストリアさん、俺は別にこいつに用なんて・・・」
 オーストリアさんは、説明するのも億劫だという空気を全面に押し出して大きなため息をついた。
「プロイセン、あなたがわざわざハンガリーのいる厩舎側を回ってからこちらに来たのは丘から丸見えでしたよ」
 腕の中のプロイセンがぐげ、とかうぐ、とか、内蔵のつぶれたような音を吐いた。
「へっ、ざまあねえなプロイセ・・・」
「ハンガリー、あなたは先日市場で買ったままずっとポケットに入れっぱなしのブローチを渡してやればいいでしょう」
「ぐげっ」
 俺の口からも魂が液状になって飛び出したみたいな音がした。
「いやいやいや、あれはそんなつもりで買ったわけじゃなくって」
 あわてて立ち上がると、プロイセンが人のわき腹を蹴りとばして腕から逃げた。
「いってぇなこの暴力女!」
 叫んで振り返ると、プロイセンが拳の中に握ったものを高々と掲げた。
「ポケットに入れっぱなしのブローチってこれかよ、ハンガリー! どうせお嬢ちゃんに渡せなくてずっと持ってたんだろ」
「ち、ちがっ、珍しい色だったからちょっと買ってみただけだよ!!」
 返せ、と手を伸ばしてふんだくる寸前、手のひらを開いたプロイセンが握っていたものの全貌を見た。
「いったいどこが違うのか分かりかねますし、私はその色は好みませんよ」
 ふう、とため息をもう一つ落としてオーストリアさんが日傘を広げる。
 ワインレッドから水色へのグラデーションが走る瑪瑙のブローチに、日傘の優しい影が落ちた。
「用事が済んだらお茶にしましょう。屋敷までおいでなさい、二人で」
 時間が止まったようにぽかんとブローチを見つめるプロイセンと俺を置いて、無情な女主人がさっさと歩き出す。