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ラボ@ゆっくりのんびり
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Bon Anniversaire!

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 誕生日おめでとう。
 その一言すら素直に言おうとしないイギリスに対して、フランスは僅かながらに困り始めていた。七月十四日、天気は快晴、気温は心地良くさっぱりとした暑さが身体を包む。こんなにも素晴らしく気持ちのいい日が自分の誕生日ということは、来年の誕生日まで素晴らしい一年を過ごせるだろうと確信できるほどに美しい日だった。
 庭に植えた百合の花がさらさら流れる風に従うように揺れていた。残念なことにアイリスはつい先日枯れてしまったが、これからの時期は百合の花が美しく咲き誇るだろう。
 庭園からついと目を逸らし、ソファに埋もれるように座っているイギリスを見遣る。目が合うだけでぎっと睨まれ、「何か用かよ」と凄まれた。
 毎年この日が来るたびにイギリスはユーロスターに乗ってフランスの家にまでやってくる。しかしイギリスとの付き合いは長いが素直に「誕生日おめでとう」と言われたのは片手どころか指三本にも満たない。素直じゃない性格だということは誰よりもフランスが一番分かっているのだが、こんな日くらい少しは素直になって欲しいと思うのは当然だった。はぁ、とひとつ息を吐く。予想外に大きく響いたその音に、イギリスは微かに肩を揺らした。
 数時間前に家のインターフォンが鳴り響き、その日は朝から宅配の業者が来たりと忙しかったフランスは何の疑問も抱かずにその扉を大きく開けた。目の前に広がるのは玄関先の風景───ではなく、真赤なイングリッシュローズの花束だった。びっくりして目を見開くと大きな花束の隙間からイギリスの顔が覗いた。


「そんなとこで突っ立ってんなよ」


 そう言い捨てたかと思いきや花束を半ばフランスに押し付けるようにして渡しながらイギリスはリビングに入っていった。その場に残されたのはフランスと、フランスが持つ花束と、ローズの芳香と、イギリスのスーツから微かに香った紫煙の匂いだけだった。慌ててイギリスを追うと、リビングのソファに座り目の前のローテーブルに堆く積まれたプレゼントの山々を苦々しげに眺めるイギリスの姿が在った。
 そのまま数時間が経った。正午前に来たイギリスはずっとソファに座ったまま、時々本を読んだりテレビをつけたりオーディオから流れる音楽を聴いたりしている。その間にフランスはプレゼントの中にあったケーキやイギリスが以前置いていったティーキャディの中から特に彼が好む茶を淹れたりと甲斐甲斐しく尽くしながら、今日は誰の誕生日だったかなどと思ったりした。
 今日は確かに誕生日と言う日だが、自分が今何歳かを数えるのを辞めたときから誕生日といえど普通の日と変わらなかった。とはいえ、フランスは国家である身だから上司や国民、他国などからも祝いの言葉やプレゼントをたくさん貰う。しかし常と変わらず太陽は昇り、そして沈み、夜になる。他の日と別段変わるというわけではない。盛大な生誕パーティーを断るようになったのは何年前からだろうとふと思った。
 国家とはいえ外見のつくりや心の動きは人間と変わりない。フランスにだって小さい頃はあった。子どもの頃は上司と遠出をする前日はわくわくして眠れなかったし、誕生日が近付くたびにそわそわしていたものだ。けれど歳を重ねていき、手の指や足の指をいくら用いたとて足らないほどの年齢になっていくにつれ、それらに対する関心がどんどん薄れていった。それが大人になることなのだと分かっていたが何だか寂寥感は拭えないままだった。
 包装紙を纏ったまま大量に置かれたプレゼントを見る。他人に祝われることは決して嬉しくないわけではない。むしろ嬉しい。しかし誕生日を迎えるたびに子どものときのように純粋に喜べなくなってしまった自分を自覚していた。
 けれどつい数世紀ほど前から何のアポイントもなしにイギリスが家に訪れるようになった。毎度種類の違うイングリッシュローズを持ち、まるでプレゼントのようにフランスにそれを押し付けながらその日は泊まって行くようになった。最初はただの気紛れだろうと思ったものだが、一世紀近くも続くとそれはほぼ当然の出来事のようにふたりの中に根付く行事となっていた。
 大人になった今では翌日が楽しみで眠れなくなるなんてことはなくなったが、七月十三日に眠りにつく瞬間、やはり次の日のことを考えてしまうのだった。
 今回は素直に誕生日おめでとうと言うだろうか、今回持ってくるイングリッシュローズは何なのだろうか、そんなことに思いを馳せながら眠りの淵に落ちていく。


「おい」


 そんなことを考えているとイギリスから声がかかった。


「なに?」

「腹減った。夕飯まだかよ」

「あー……今から準備したら三十分くらいで終わるよ。つーかイギリス、お前最近食う量増えたよな」

「そうか?」

「イギリス〜もしかして太ったんじゃないの〜?」


 によによと笑いながらイギリスの座るソファの横に腰を下ろした。うるせぇよ馬鹿、と返答しながらもイギリスの視線は自身の腹部に向かう。言葉は素直ではないが、イギリスの時々見せる仕草がひどく素直でフランスは隠れて口唇を上げた。
 からかってやろうとさらに距離を縮めながらイギリスの耳元で囁く。口唇に短い金髪が触れた。細い髪の毛はくすぐったいほどに柔らかい。


「知ってる? セックスって有酸素運動だからやり続けると痩せるんだよ」


 お兄さんと実践してみようか。
 そんなことを言えばイギリスはきっと顔を真っ赤にして目を見開いて「ばかぁ!」なんて叫ぶだろうと、軽くそんなことを思っていた。しかしフランスの言葉の残響が溶けてなくなってもイギリスは何も言わず、そして動こうともしなかった。訝しげに思いながらイギリスの顔を覗き込む。目が合った瞬間、イギリスはエメラルドの色をした瞳をすっと細めた。そうしてゆっくりと口唇を開く。


「いいぜ?」


 何の臆面もなくそんなことを言うものだからフランスは言葉を発せなくなるほどに驚いた。ぱくぱくと動かす口唇がイギリスの口唇に塞がれる。子どものキスみたいに一度軽く触れて離れたそれはすぐにまたフランスの口唇に吸い付く。ぬる、とした舌がフランスの口内に入ってくる。すぐにそれを絡め取りながら身体の奥にあるスイッチが音を立てて入ったのに気付いた。
 ちゅ、ちゅ、と音を立てながら口付ける。時々粘着質な音が耳に届くたびにフランスの情欲が煽られた。キスに関して世界一のテクニックを持つイギリスに負けないようフランスも角度を変えては舌を伸ばし、そのままソファにイギリスの身体を沈めた。名残惜しみながら口唇を離すと、イギリスの口唇の端からとろりと唾液が零れ落ちてソファに小さな染みが出来た。
 そのまま、一秒ですら離れているのがもどかしいとでも言うようにもう一度口付けようとしたフランスをイギリスの指先が止める。いきなりのオアズケ状態に不満そうな顔をしてみせるとイギリスの腕がフランスの首に回った。
 ぎゅう、っと力が込められる。
 イギリスの口唇がフランスの耳元のすぐ横で動いた。


「誕生日、おめでとう」