Bon Anniversaire!
それは蚊の鳴くような声だったが、こんなに至近距離に居るのだから真っ直ぐにフランスの耳に届いた。目を瞠る。イギリスの顔を正面から見ようと思ったが首に回された腕がそれを阻止した。せめて目線をイギリスの顔に向けようと試みると、目の前にある耳が先ほど貰ったイングリッシュローズのように真赤になっていた。
その瞬間、身体の奥にある心にぷつんと針のようなもので穴が開いた。その穴からゆるゆるとあふれ出す気持ちが止まらない。面映いほどの温もりを湛えたその気持ちがフランスの身体を満たしていく。恋しいではなく愛してるでもなくただ“愛おしい”という気持ちが身体中に満ち満ちた。
ぎゅうぅっとイギリスの身体を強く強く抱きしめながら同じように近くにあるイギリスの耳元に囁いた。
「メルシー」
たったそれだけしか言えなかった。嬉しすぎて頭が回らない。女の子を口説くような上手な言葉は言えないけれど、それでもイギリスはきっと分かってくれると信じた。
作品名:Bon Anniversaire! 作家名:ラボ@ゆっくりのんびり