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こらぼでほすと アスはぴば

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「なんで、俺? 」

「だって、ラクスに相談したら、ママがいいって言ったんだもん。」

 唐突に、寺に一人で現れた大明神様は、お寺のママにしがみついて、わきょわきょと騒いでいる。大抵のことは、なんでもしてくれるママだが、それは・・・と、ちょっと困った顔になった。まあ、おおよその流れというのは解るのだ。おそらく、歌姫様は、到底、自分では無理だと思ったから、こちらに大明神を投げつけたに違いない。

「それで? どうして、ケーキなんだ? 普通に贈り物を買えばいいだろ? 」

「毎年、誕生日に、『プレゼントは、ぼ・く。』っていうのもマンネリでしょ? それに、僕、お金持ってないし。」

「はあ? まだやってんのか? そんなことっっ。」

「やってるよーレースのリボン巻きつけて、とか、フリフリベビードール、とか・・あとね・・」

「うわぁー聞きたくねぇーーーっっ。」

「ママが聞いたんじゃない。だから、たまには趣向を変えて、手料理ってどうかな? みたいな? もちろん、あとで僕も食べてもらうけどね。」

 マトモな神経の持ち主には、かなり過激に痛い電波攻撃だった。何年経っても、この電波は堪える。実弟のエロ会話も、大概だが、それと同等のダメージがある。

「わっわかった。一緒に作ろう。それでいいだろ? 」

「自分ひとりでやりたい。」

「それじゃあ、無理だから。なあ、キラ。最初から、完璧なんて、誰もできないんだからさ。今年は、俺と一緒に作ろう?」

「うーん、しょうがないから、それでいい。」

 大明神様は、家事能力皆無。むしろ、破壊的と言っても過言ではない。どんなことをしても、その手料理は毒物になるという怖ろしい特技がある。だから、ひとりで作らせるなんて、大明神様のダーリンを即効で蓮の上へ送る結果になることは見えていた。それだけは阻止しなければ、と、ママも必死だった。



「まず、じゃがいもを洗う。」

 ケーキなんていう高等技術を要するものは無理だから、それに見栄えが近いものにした。ごしごしと水でジャガイモを洗わせて、そのまま鍋に水と塩を入れて茹でさせる。

「もういいだろう。これを手で剥く。熱いから気をつけろ。」

「うぎょっっ。熱いっっ。」

「だから、気をつけろって。」

 ぴいーぴいーと泣きながら、キラは熱々ジャガイモを剥いた。それだけは、ひとりでさせた。そして、その間に、ママがゆで卵とレタス、きゅうり、茹でた細切りニンジンを用意する。一時間かかって、ジャガイモは剥けた。かなり、皮は残っているが、混ぜてしまえば、どうにかなる程度になった。

「次は、これを潰す。力を入れないと潰れないからな。」

 ジャガイモはすっかり冷めてしまったから、なかなか力仕事だ。それも、どうにか終わると、よしよしとママは、大明神様の頭を撫でた。問題ない。毒物にはなっていないはずだ。そこからは、手っ取り早くママがやってくれて、どうにか初めての手料理は完成した。絶対に、付け足したり触ったりしないこと、と、言いおいて、送り出す。





 なぜか、キラが、一人で外出した。行き先が寺だと言うから、それなら問題はないだろうと送り出した。お昼から出かけて、もう暗くなっている時刻なのに戻らない。そろそろ迎えにいったほうがいいのかな、と、思った頃に戻って来た。

「ただいまぁー。」

「おかえり、遅かったね? キラ。」

「これ、明日なんだけど、明日じゃ間に合わないから、今、あげる。」

 差し出された紙袋には、ケーキの箱だ。ああ、俺の誕生日だったっけ、と、アスランも受け取った。

「開けてもいい? 」

「もちろん。」

 えへへっと笑ったキラは、少し恥ずかしそうにする。開けてみたら、そこから出てきたのは、ケーキだった。いや、よく見ると、ケーキみたいなものだ。

「あのね、今年はケーキにしたんだ。僕が半分以上作ったんだよ? ママも手伝ってくれたけど、かなりがんばった。」

「キラが? え? 」

 ごめんなさい、ごめんなさい、と、内心で寺のママにアスランは全力で謝った。とっても迷惑をかけたに違いない。キラの料理の才能は破滅的だ。キラの料理を手伝うなんて、さぞかし疲れたに違いない。

 それは、ポテトサラダでできたケーキだった。ワンホールのケーキになっていて、上には卵の白身が細かく刻まれたものがかけられて、プチトマトが飾られている。

「じゃがいもを剥くのって熱くて大変なんだね。僕、知らなかったよ。」

「キラが剥いたの? 」

「うん、それと潰すのまでは、全部、僕ひとり。後はママ。」

 今夜、店でお礼を言わなければ・・・と思いつつ、頬は緩むのは止められない。基本的にキラは面倒くさがりで、料理なんて作ろうともしない。そうなってしまったのは、アスランが死ぬほど甘やかした結果だから、それでいいのだが、そのキラが、自分の為に料理をしてくれるなんて嬉しくて仕方がない。

「ケーキか。」

「それと、やっぱり、僕もね。」

「それは、今夜、帰ってからおいしく食べさせてもらうよ。とりあえず、こっちは先にいただこうかな。」

 そろそろ出勤する時間だが、キラが作ってくれたものは、先に食べたかった。どんなにまずかろうが、毒物に変化していようが、食べずにはおれない。キラが自分だけの為に作ったなんて、世界にひとつしかないのだから。

 人差し指で、ホールの一角を掬い取って口に含んだ。ちゃんと、甘くて、それから酸っぱいマヨネーズの味が広がる。

「・・・おいしい・・・キラ、すごくおいしいよっっ。」

「よかった。じゃあ、僕も。」

 キラは、自分の指ではなく、アスランの指に掬わせて、それをぺろぺろと舐めた。うん、おいしいねと、ニパッと笑うのが可愛すぎてくらくらする。

「それ、反則技だ、キラ。」

「くふふふ・・・・今は指だけ、だけどね。」

 ぺろっと、指の付け根を舐めて、艶やかに微笑む顔なんてものは、アスランに独占されたアスランしか見られない表情だ。アスランも微笑んで、キラの唇に軽いキスを送る。

「とても嬉しいよ、キラ。」

「今夜、一番にお祝いするからね。」

「店を休んで、このまま、その瞬間まで、こうしていたいな。」

「そうする? 」

「そうしようか? 」

 今夜、キラの指名はない。明日は休むつもりをしていたから、予約は入れていない。だから、休んでも店に支障はないはずだ。どうせなら、この特別なケーキを、ふたりして味わって、その時間を待ちたい。

「じゃあ、決まり。」

 キラもすっかり、そのつもりになっている。珍しく、当人が店に連絡を入れて、ふたりとも休むと告げて、携帯を切った。もちろん電源も切る。

「アスランのも切って。」

「了解。」

 これで、邪魔するものはなくなった。

「とりあえず、前祝のシャンパンあたりからかな。」

「そうだね。ケーキはあるし・・・明日は、どこかへデートしようね。」

「もちろん、そのつもりだった。」

 また、明日から同い年になる。誰にも邪魔されない誕生日前日からのカウントダウンは、なかなか良い贈り物だと、アスランも微笑む。

「愛してるよ、キラ。」