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散りにけり あはれうらみの誰なれば

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「では、皆がこの学園での生活を有意義なものとし、立派な忍として旅立つ事を期待している。それぞれきっちり勉学に励む様に。」
解散!と声が響き、この忍術学園に新入生として入学した生徒たちが揚々と顔を上げ、千千に散っていく。皆一様に年端もいかない子らばかりが一堂に集まり、これから約六年間、忍びとしての学問を修学し、やがては一人前の忍として卒業する。多くの者は、その希望と期待を胸にこの学園の門戸を叩くのだ。先ほど生徒の前で訓示を述べた人物、自分とさほど変わらなそうな背丈の老人は、この学園の長だと言う。妙に耳に残る声の、これまた妙な髪型をした人物だった。一見して、熟練した術を使うだとか、力が強そうにはとても見えず、あんな爺さんが学園長になれるのなら、いつか自分にだって務まるんじゃないかと、文次郎は入学した早々に不謹慎な事を考えていた。周りを見渡すと、既に辺りに居たはずの多くが移動を開始していた。文次郎は遅れてはまずいと配布された紙を広げ、割り当てられた部屋へと向かうべく踵を返した。歩きつつ、新入生向けの案内と共に渡された学園内の配置図を顰め面で眺める。どうも地図を見るのは苦手だった。迷っていると取られるのも癪だったので、暫くにらめっこした後には、どうにかなるだろと、とにかく人の流れる方へ足を向けた。暫く進むと、ざわざわと周囲が騒がしくなった。声のする方へ顔を上げると、どうやら男子生徒の住む長屋の区画までたどり着いたようで、開いた戸から上級生が興味津々の表情で顔を覗かせていた。突如好奇の視線に晒されて、文次郎は憮然とした面持ちでそれを見返した。
「っと、すまん。」
気を取られて上向いていたため、前を歩く人物にぶつかってしまった。相手をよく見てはいなかったが、小柄な感触に同じ新入生と判断した文次郎は、少し砕けた言葉で謝罪した。落とした紙を拾ってやろうと身を屈めると、それを拒否する様に白い手がさっと取り上げ、ついた砂埃を音を立てて払った。
「よそばかり見て前方がおろそかだからぶつかるんだ。気をつけろ。」
「あ…あぁ、わりぃ。」
ぶつかった相手は、さら、と靡く髪を高く結い上げ、腰に手を当てつつ高飛車な様子で真っ直ぐ文次郎を見ていた。異様に白い面に文次郎は絶句する。それから、高い声色は年少特有のものだろうか。…それだけでは、説明がつかない気がする。だから文次郎は、親切心で口を開いた。
「なぁ、お前、くのいちの長屋はこっちじゃないぞ?」
「…きさまの目は節穴か?」
「なんだと?」
気を遣って言ってやったつもりの文次郎は、その辛らつな返しに怒りを覚えた。
「目の前のものもまともに見えないのであれば、節穴以外のなんでもないだろう。お前にはこれがくのいちの装束に見えるのか?ならお前もくのいちなんだろうな」
言われて、はたと相手の衣服を見直した。なぜ気づかなかったのかと問われれば、全く自分の落ち度だったが、目の前の人物も自分と同じ明るい空色の衣を身に付けていて、それは、つまりそういうことだ。
「あ、」
「フン、まったくそんな様子ではこれからが思いやられる。」
不機嫌そうな顔のままそう言い放ち、颯爽と去って行ってしまった。謝る間も無く、文次郎はしばしあぜんとしていた。再び気づいた時には、もうすでに辺りに彼の姿はなく、今度会った時にでも謝っておこうと思った。
一学年はい、ろ、はの三つの組に分かれる。少なくはないが、会う機会が無いほど多くもないから、いつか顔を合わせる事もあるだろうと、文次郎は歩を進めた。

「………!」
あてがわれた部屋を確認して戸を開けた文次郎は、開けたままの格好で、文字通り固まった。
「ほうけた面して、寝ぼけているのか?早く閉めてくれ。」
そこに、片眉を跳ねあげて、横目に見上げる先ほどの彼がいた。不機嫌そうな顔を隠そうともしない。文次郎は足を踏み入れて、後ろ手に戸を閉めた。
「おまえ、さっきの」
「お前ではない、仙蔵だ。立花仙蔵。お前などと呼ぶな。」
「あ、あぁすまん。ーその、さっきは」
「まったく、本当に先が思いやられるな。だが、いくらお前も寝食を共にすれば嫌でも判ろう。」
「…なんのことだ?」
「私にもおまえと同じものがついてるってことがさ。」
「なっ、付いてるって…」
明け透けな言葉に、文次郎は言いよどみながらつい視線を下降させる。そこらの女より綺麗な顔をしているし、声変わり前の高い声はやっぱり異性と見まごうばかりだ。果たして本当にそこに付いているのだろうか、疑わしい。そんな文次郎の疑念を察知したのか、仙蔵は脇息に肘をつきつつ眉根を寄せた。
「きさま、まさか若道の気があるんじゃないだろうな。」
「なっ馬鹿いうなっ!」
「まぁ他人の趣味には口出ししないが・・・」
「だからっ違うと言ってるだろうが!」
とうとう顔を真っ赤にして声を荒げた文次郎を見て、仙蔵は堪え切れないとばかりに笑いだした。
「・・・くくっ、悪かった。そう目くじらを立てるなよ、これで相子だろう。」
そう言って、仙蔵は手を差し出した。なぁ、と、さっきの文次郎の非礼もこれで相殺だというように、握手を求めたのだった。
「いや、俺の方こそ・・・悪かった。俺は、潮江文次郎だ。」
「あぁ、宜しくな。」
求めに応じて手を差し出し、握手を交わす。きゅっと握られた瞬間、文次郎の掌に刺すような痛みが走り、弾かれる様に手を引いた。痛む手を押さえ、目を白黒させる。仙蔵は、先程よりもさらに楽しそうに笑った。
「あははっおまえは本当に、おもしろいなぁ。」
「っ痛ぇ、てめぇふざけんなっ」
「ふざけてなどいないさ。油断するほうが悪いに決まっている。」
快活にそう言ってのける仙蔵に開いた口が塞がらない。かつて出会ったことのない種類の人間に、文次郎は理解が追いつかなかった。
(!?こいつの頭はどうなってんだ…)
「治療をするならはやく保健室に行った方がいいぞ?良かったな、きっと利用者第一号だろうさ。」
そう言って仙蔵は、部屋を出てどこかへ行ってしまった。そこでようやく息をつく。なんという人物だろうか。長い付き合いになるであろう相手に、文次郎はため息を禁じえなかった。

「こんな初日からここに来るなんて君もついてないねぇ。」
保健室で手当を受けていると、治療をしてくれた教師に同情の言葉を掛けられた。確かに災難だったが、他人から言われると、余計に堪えた。
保健室までも、またあの配置図と顔を見合わせ、なんとか一人でたどり着くことができたが、既に日は沈み、窓の外は墨の色が滲んでいた。
「ところで夕飯は食べたのかい?」
「いいえ、部屋に荷物をおいてすぐにきたので。」
「なんだって?それはまずい。もうとっくに時刻はすぎているよ。」
聞けば給食を担当する人物は相当癖があるらしい。遅れてのこのこ行こうものなら抜きになるかもしれないと言われ、文次郎は挨拶もそこそこに部屋を飛び出したのだった。
(あいつ、絶対分かってて言わなかったな…!)
こうして、これから長らく同室となる二人の生活が始まったのだった。

***

「懐かしいな。あぁほら、あれなんかお前にそっくりじゃないか。」
「どいつだ?」
「ほら、そこの如何にもどんくさそうな奴。」