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牧師とVampir

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それは深夜に出掛け先より帰る道すがらだった。
路地を外れた狭く暗い場所に何故か引かれて入った先にそれはいた。


「‥Vampir?」

今この地にて噂されている吸血鬼の話を思い出した。
ここ最近夜な夜な若い娘の血を抜かれると話を聞いていたのだが、いま自分の目の前に転がっている者からかすかに感じられる瘴気で彼がその噂の吸血鬼なのだと思うのだがどうにも想像と違っていた。

まずその身に纏っているものが異端でこの闇の中でも気付けるぐらいの真っ白の服であり、その白い服が多分血だまりの中でずくずくと色に侵食されていたのだ。

確か自分の記憶の中では吸血鬼というものは空を飛び壁を抜け、人間の武器では傷もつけられないとあった筈なのに今目の前で転がっているのは確実に怪我を負った吸血鬼。
そして思う。
人の血を好む怪物も人間と同じ色の血を流すのかと。
興味本位でその顔を覗き込むと思ったより若い顔立ちであった。
だがその顔立ちもこの辺の者ではない輪郭に髪の色だった。
そして苦しげに一度こほりと堰をした。
どうやらまだ息はあるようだ。
人間だったらこの出血では絶命しているであろう量なのに。


吸血鬼に傷を負わせるには聖なる水に漆黒の杭、そして神の加護を受けた銀の弾での銃弾だ。
この身体を見る限りどうやらその銀の弾を食らったものではないかと思う。
と言う事はこの吸血鬼を攻撃したのは吸血鬼ハンターか、もしくは自分の同業者となるのだろ。
自分が手を下す事もなくこのまま放置すればこの吸血鬼は長くはないだろう。
ならこのまま立ち去るのが一番だとわかっているのに、どうしても興味が引かれて仕方がないのだ。

むしろ最初から呼ばれてしまっていたのだろう。
だからこんな人気のない所に落ちている吸血鬼と遭遇したのだと思う。
ならその意思に歯向かわなくてはと理性ではわかっていてもどうにもあがらえないのだ。
こんな事だからあの初老の男にもバカにされてしまうのだ。
わかってはいる。
わかってはいるのだけど。




目の前で誰かが死んでいくのを見逃せる性格ではなかったのだ、仕方ないと思った。

よいしょと腕を引き、身体を持ち上げると思っていたよりずっと軽くて思わず二度見をしてしまった。


作品名:牧師とVampir 作家名:へべれけ