牧師とVampir
その小さな村は農業で営む小さな小さな、でも温かい村だった。
少し外れにある教会に最近新しい人が入ったというが、若い者がどんどん減っていくこの村の人にとっては歓迎すべく外の人、だった。
牧師様が紹介してくれた新しい人は少し変わり者のようだったが人徳あつい牧師様があそこまで心を砕いている人なのだからたぶん良い人なのだろう。
村での評価はそんな感じであった。
「もー八宵、仕事を手伝ってくれないならあちらに行っててください!」
「だが断るw」
「じゃあせめて邪魔しないで下さい><」
台所で食後の食器の後片付けを二人でやっていたつもりだったのだが、これはどうみても邪魔されているようにしか見えなかった。
あれから。
彼とは話を沢山した。
どこまで話していいのかと少し悩んだがここまできて包み隠すのもおかしな話だと腹を割ってとことん話し合った。
『私が死ぬ時に、一緒に死んでくれませんか?』
ウーリッヒは気づいていた。
彼は人間と違い、確実に自分より長生きするだろう事を。
でも彼はもうこれ以上傷つく事などしたら駄目だろう。
彼を内包したなら次に手放してしまった時に今度こそ彼は壊れてしまうのだ。
たとえ自分の死が不本意であっても彼のそばを離れる事はもう出来ないのだ。
なら、一緒に死ぬしかないのではないかとウーリッヒは思ったのだ。
自分でその命を救っておきながら、最後は彼の命を頂くのだ。
なんとも自分勝手な話だ。
でも彼はどこかでわかっていたのかそれはあっさりと返した。
『仕方ねぇな。んじゃ俺の命やるか』
それが、はじめて見た彼の笑顔だった。
ずっと警戒されて、怒っている顔、表情が消えた顔。
考えてみたらずいぶんと最初から色々な顔を八宵は見せてくれていたけどでも笑顔が一番良い顔だと思えた。
このまま。
たぶん一緒にいてもウーリッヒが先に亡くなれば一時的に癒された傷は更なる深い傷になるだろう。
その時こそ彼は自分が死ぬもよし、世界が滅亡してもよいと思うだろう。
そんな事だけは絶対にあってはあってはいけないのだ。
人間にも、八宵にも。
ここがたぶん八宵の最後の場所になるのだろう。
長い旅の最後には良いか悪いかはウーリッヒ自身にかかるだろう。
でもここで少しでも本位でなかったにしろ、傷つけた人や手をかけてしまった人の為に生きてもらえればとウーリッヒは思ってるのだ。
どう転んでも彼も彼で牧師という立場を忘れる事は出来なかったから。
あと、彼の体内の弾丸を落ち着いたら然る場所で処置しに行こうと言ったのだが
『いい』
と断られた。
「何故ですか?痛くはないのですか?ちゃんとした場所でなら治るのですよ?」
「あ~~‥、うー」
「大丈夫ですよ? ちょっとめんどくさい人ですが腕は確かなので‥」
「いや、そうじゃなくて‥」
歯切れが悪くてどうしたのやらと思っていたら言ったのだ。
「最後の時に、お前がやりやすいように、このままでいい」
と。
それは、多分ウーリッヒの最後の時に八宵を殺しやすい為にと言っていたのだ。
「いえ、だって、そんな‥。まだ私長生きするです。それまで、痛い思いをし続け、るのです、か?」
混乱した。
当たり前だ。
余りの事に舌がもつれる。
「あー、うん。だから、最後の時はちゃんと一発で楽にしてくれよな」
正直ウーリッヒはこれには本当にビックリした。
彼はちゃんとわかっていたのだ。
自分の罪を。
その上でウーリッヒを信じて身をゆだねてくれたのだろう。
そして責任の重さを知る。
本当に命を預けてもらったのだ。
そっと傷の上の辺りに手をそえた。
「それは‥責任重大ですね」
「はっ思ってもねぇくせに」
泣きそうになったので、それは違うと二人無理に笑いあった。
その、小さな村にははずれに小さな協会が一つあった。
牧師が二人おり、白と黒のでこぼこな二人であったがそれは仲良く暮らしていたという。
農業しかないのどかな村であったが人は優しく穏やかな気候で細々とした、でも幸せな村があったという。
<了>